「なにっ!魔法少女に変身できなくなっただと!?」
私は思わず声をあげてしまう。
「うぅ~、凛さんどうしよう~」
目の前の少年、普段は少女だったりもするが-、翔は涙目になっている。
「うみねこ、こんな事もあるのか?」
「何も分からん。こんなのは初めてだ」
翔と同じく困った表情を浮かべオロオロしている。
うみねこが分かる事って逆になんなんだろうか…
「おっ、どうした少年?」
「何やら大変そうね」
アジトにたむろっていた若菜と千紗も騒ぎを聞きつけてこちらによってくる。
「それが…翔が魔法少女に変身できなくなったらしい。翔、いつから変身できない事に気がついたんだ?」
「……えっと、その…昨日の夜は普通に魔法少女に変身できたんだ。変身したまま天空と一時間ぐらいお風呂入ってそれから」
「えっ!天空ちゃんと女の子の姿でお風呂入ったの?ねえねえどんな感じで-ぎゃんっ!」
話の腰を折ろうとした若菜を千紗が鉄拳制裁で黙らせる。
「続けて翔」
「うん…それで…昨日は疲れて魔法少女のまま寝ちゃったんだ。でも朝になったら変身が解けていて、それから何度やっても…」
「変身できなくなっていた、というわけか」
「はい…」
登校や休み時間などでも何度か試してみたが変身はできず仕舞い。結局そのまま放課後アジトに来たという事らしい。
話は解ったが、原因は全く不明だ。特に目新しい事があったとも思えない。どうしたものか。
「う~~~ん」
皆が悩んでいると、
「はいはいはいっ!」
笑顔で若菜が手をあげる。
「わたし解決策が分かったかも!」
「本当でしょうね…」
ロクなもんではないだろう、という目を向ける千紗。
「ふふーん、よ・う・は・翔が女の子力を取り戻せばよいんだよ!」
「お、女の子力…?」
翔は嫌な予感がする、という表情で聞き返す。
「翔は女の子の気持ちに近づくほど、魔法少女として強くなるんだよね?ならさー、男の子の姿でも女の子の気持ちを思い出す事が出来ればまた変身できるよ!」
ひとさし指をピンと立てながら若菜は説明する。
「そこで!今から少年には女の子の恰好をして貰います!さあ、女の子の気持ちを思い出そう!」
そう言って若菜は立てた指をビシッ!と翔に向けた。
「なるほど…一理あるわね」
珍しく賛成する千紗。
確かに若菜にしては話の筋が通っているようだ。
「私も賛成だ。やるじゃないか若菜!翔、ちょっとタンスの方で着替えを」
「い、いやだ!男の恰好で女装って…それじゃあ本当に変態じゃないか!」
翔はとっさに逃げようとする。
しかし、千紗と若菜は素早く道を塞ぐ。
「ふふーん、翔。観念しなさい」
「町の平和のためよ…」
ちょっと可哀そうだが、仕方がない。
他に方法も思いつかないし、今だけ我慢して貰う他ないだろう。
「大丈夫だ翔。ここには私たちしかいない。魔獣からみんなを守るためだ」
30分ほどの説得や攻防の末、翔は観念する事となった。
「うぅ…」
大切なものを失ったという感じの翔。千紗の服や若菜の下着を着せられたせいで、魂が抜けそうになっている。
しかし、その可憐さは目を見張るものがあった。
「翔…女装も普通にいけるね…」
「これはこれで良いものね」
若菜と千紗も目が離せないでいる。
前にも似たような事はしたが、あの時の翔は魔法少女に変身していた。
しかし今回は女装であっても、年齢や顔立ちのせいだろうか?全く違和感がない。髪の長さや雰囲気こそ違えど、ボーイッシュな女の子のようだ。
「むしろこ、これはこれで可愛いな…」
思わず私も言葉が漏れる。
「そ、そうだ翔!変身はできそうか?」
危うく本題を忘れかけていた。
2人もハッとする。
「うん…やってみる!」
わずかに生気を取り戻した翔は力を込めるが
「だめだぁ…」
すぐにシューンと力が抜けていく。失敗のようだ。うーん、まだ何か足りないのだろうか。
「うーん、ダメかあ…こんなに“可愛い”のにね~。私、翔が魔法少女になれたのちょっと分かるな」
「同感…他にも色々着てみればもっと“可愛く”、じゃなかった魔法少女の力を取り戻せるかも」
「おい、遊びじゃないんだぞ。いくら翔が“可愛い”からと言ってだな」
「すみませんキャプテン~。でもこれだけ“美少女”っぷりを見せられるとつい…」
思案しつつもみんなそれぞれ好き勝手言っている。
そんなやり取りをしながらふと翔を見ると
「~~~~~~!」
首から上へと、みるみる顔が赤くなっていく。
どうしたのだろうか?熱でもあるんじゃないかと声をかけようとした時、
「か、か…俺は可愛くなんてない―!」
翔はか細い声でそう叫んだ。
と、同時にぼんっ!という炸裂音が響き渡る。
「あ、あれ…?」
見れば翔は魔法少女に変身していた。
「変身できた~!」
先ほどの事もどこかに飛んで行ったのか、ぴょんぴょん跳ねて喜ぶ翔。
「おお~戻れたじゃん!ふふん、やっぱり私の予想は当たっていたね!」
「こっちもいいわね…」
「やれやれ…一時はどうなる事かと思ったよ」
一同、ほっと胸をなでおろす。
…しかし、もしかして翔はみんなから可愛いと褒められた事が最後の一押しとなって魔法少女になれたのだろうか?
そう考えると、私はなんだか複雑な思いになるのだった。