運命の人専門名探偵
ロミオ
場所 不明
人物 お嬢さま メイド女 パパ 大金持ちの御曹司のあのお方 モデルのあのお方 皆様お噂のとてもハンサムのあのお方 とてもとてもお優しいあのお方 とても可愛らしいお坊ちゃん 運転手
第一幕
第一場 豪邸、いくつもあるお嬢さまの部屋のひとつ、プレゼント収納部屋
お嬢さまと、メイド女。
お嬢さま (部屋の中うずたかく積み上げられたプレゼントの山を見ながら)今年の、誕生日パーティーは、まあまあだったわね!
メイド女 おめでとうございます、お嬢さま。お嬢さまの誕生日を祝わせていただけるなんて、私は本当に幸せなメイドです。(近くのテーブルの上にのっている6つのプレゼントを見ながら)お嬢さま、パーティーの終わり、駆け込みで、置いていかれたこのプレゼントは、どこへ運びましょうか?
お嬢さま そうねえ(けだるそうに、6つあるプレゼントの1つに添えられているカードをとって見ながら)……!!!
メイド女 ? (カードを持っているお嬢さまの手が震えているのを見て)お嬢さま、どうかなさいましたか?
お嬢さま 見つけた……ついに見つけたわ!
メイド女 何をでございますか?
お嬢さま 決まっているじゃない、私の運命の人よ!
メイド女 カードには何と書かれているのですか?
お嬢さま (咳払いをして)いい? 読むわよ。『僕の一番大事な人へ、この有り余るお金を使って、世界を買ってプレゼントしようと思います』(メイド女にカードを渡し、プレゼントの包みを解いて箱を開ける)まあ!(中から地球儀が現れる)まるでカミナリに打たれたようよ!
メイド女 カミナリですか?
お嬢さま 私はずっとずっとこんな人を待ち焦がれていたのよ!
メイド女 地球儀をプレゼントしてくれる人をですか?
お嬢さま 違うわよ! こんなことを考え付くような人をよ!
メイド女 私には世界を買うのは、不可能なことだと思いますが。
お嬢さま あら、そうかしら? 私には不可能には思えない、それに実際には不可能でもそれぐらいの物を私にプレゼントしようって言う、その心がいいじゃない! (カードをメイドから受け取り裏返して見ながら)差出人の名前が書かれていないわね。こんなプレゼントを私にする人は、どこのどなたなのだろう? (メイド女に)あなたは見ていたんでしょう?
メイド女 いいえ、お嬢さま。私は、部屋の前におりまして。パーティーの終わり、駆け込みで、6人が、プレゼントを持ってこられましたので、『私が受け取る形になってはよくありませんので、ご自分でその部屋のテーブルにお願い致します』とお願い致しました。どなたがこのプレゼントを持っていたかは覚えておりません。
お嬢さま でも、その6人は覚えているでしょう?
メイド女 はい。覚えております、まず一人目は――
お嬢さま ちょっと待って!
メイド女 え?
お嬢さま ちょっと待ってなさい! すぐ戻るわ!
部屋から急いで出て行き、そしてしばらくして戻ってくる。ウェディングドレスを着ている
お嬢さま さあ、続きを話しなさい。でももう私には犯人がわかっているようなものだけれどもね!
メイド女 犯人? お嬢さまその格好は?
お嬢さま お嬢さまじゃないわ! 名探偵と呼びなさい! そうねえ……運命の人専門名探偵と呼びなさい! さあ、早く容疑者6人のことを話しなさい!
メイド女 はい。……わかりました。ええと、まず一人目は、お父様です。
お嬢さま パパ?
メイド女 はい。
お嬢さま パパは容疑者から外していいわ。私のことを愛してはいるけれども、それは親子の愛だからねえ。さあ、他の容疑者のことを早く、全部まとめて手早く簡潔に言いなさい!
メイド女 はい。それでは。(少し間を置いて)2人目は、大金持ちの御曹司のあのお方、3人目はモデルのあのお方、4人目は皆様お噂のとてもハンサムのあのお方、5人目はとてもとてもお優しいあのお方、そして最後6人目は、とても可愛らしいお坊ちゃんが。
お嬢さま 子供?
メイド女 はい。
お嬢さま 子供も容疑者から外してもいいわ! じゃあその4人ね! その4人の中に私の運命の人が! あなたは誰だと思う?
メイド女 私には、まったく見当がつきません。
お嬢さま (得意げに)そうでしょうねえ! あなたにはわからないでしょうねえ! さあ、推理の始まりよ! まず、大金持ちの御曹司、これは容疑者から外してもいいわ!
メイド女 なぜですか? 大金持ちなのですから、世界を買うにはこの方が、一番可能性があるように私には思えますが。
お嬢さま (得意げに)素人はこれだから。わかっていないわね。『一番怪しい人物』が犯人であったためしがないのよ! 作者のミスリード、かませ犬なのよ!
メイド女 はあ、……そうですか。
お嬢さま なに? あなたまさかこの私の推理を疑っているの?
メイド女 いいえ。とんでもありません。
お嬢さま いいや、疑っているわ! じゃあ、論より証拠。実際に確かめてみましょう! さあ、行くわよ! (二人退場)
第二幕
第一場 大金持ちの御曹司の豪邸、門の前
お嬢さまと、メイド女、大金持ちの御曹司。
お嬢さま 遅いわね! もっと早く来なさい! 単刀直入に聞くわよ! あなた、私に地球儀のプレゼントを贈った?
大金持ちの御曹司 遅れて申し訳ありません。家から門まで車を飛ばしてきたのですが。ええと、プレゼントですか? いいえ、私は地球儀なんて安っぽいものではなく、バッグを、高級なバッグを差し上げました。
お嬢さま 高級ねえ? あなた世界中にバッグが何億個あると思っているの? 高級バッグ一個ですって! スケールが小さすぎるわよ! お話にならないわ! (メイド女の方を見て)ほらね! 言ったでしょ! ミスリードなのよ! じゃあ、次に行くわよ!(お嬢さまと、メイド女、車に乗って退場)
大金持ちの御曹司 あのちょと……わからないと思ってバッグのランクを下げたのが、いけなかったかなあ……(車に乗って退場)
第三幕
第一場 とてもとてもお優しいあのお方の屋敷へ向かう車の中
お嬢さまと、メイド女、運転手
お嬢さま ねっ、だから言った通りだったでしょ?
メイド女 はい。さすがはお嬢さまです。私にはその格好が、お似合いになってきたように見えます!
お嬢さま モデル、ハンサムともに、複数の女性に言い寄られているところを、あなたも見たことがあるでしょ! 複数の女性に言い寄られるあの二人は努力を怠ってしまって、あんな言葉思いつかないのよ! あんな心にはなりにくいのよ! さあ、着いたわ!(二人車から降りる)
とてもとてもお優しいあのお方、屋敷の前で、ニコニコして待っている。
とてもとてもお優しいあのお方 素敵な格好ですね、お嬢さま。
お嬢さま ええ、ありがとう。答えはわかっているのだけれど、質問するわ! あなたは私に地球儀のプレゼントをしたわね!
とてもとてもお優しいあのお方 いいえ、お嬢さま。
お嬢さま えっ! そんなはずないわ! 本当に?
とてもとてもお優しいあのお方 はい。お嬢さま。
お嬢さま 何がどうなっているの? ひとまず帰るわよ!(お嬢さまと、メイド女、車に乗って退場)
とてもとてもお優しいあのお方 (車が見えなくなるまで手を振っている。屋敷に向かって歩き出し退場)
第四幕
第一場 豪邸、屋敷の中
お嬢さまと、メイド女。ちょうど帰ってきた父親。
パパ おお、なんという可愛い探偵さんだ! パパが犯人なら、自分から自分が犯人だと名乗り出て、結婚を申し込んだろう!
お嬢さま パパお帰り。私たちもちょうど今帰ってきたところよ。
メイド女 お帰りなさいませ、旦那様。
パパ (二人に)ただいま。ただいま。 話は聞いたよ、探偵ごっこは楽しかったかい?
お嬢さま ごっこじゃないのよ。私は本当の名探偵なのよ! 今も今、難事件に出くわしていて、袋小路に入っているところなのよ! どういうことなのかしら? 容疑者4人が全員白だなんて……4人? (メイド女に向かって)確か最初は5人だったわね! 誰が容疑を免れたんだったかしら? ああっ!!!
お嬢さま、メイド女が同時に (父親を指差し)ここに犯人が!!!
パパ (真剣な顔で)何を言っているんだい。パパは人を殺したりなんかしないよ! 神様とママに誓ってもいい。パパは無実だよ! 信じておくれ!
お嬢さま 違うわよ、パパ。やっと解決ね! パパ、私に贈った誕生日プレゼントは何? 待って(メイド女と、父親を見て)せーので言うわよ。せーのっ
お嬢さまと、メイド女 地球儀!
パパ パパが作詞作曲した、娘への愛のうた!
お嬢さまと、メイド女 え――――っ!!!
第五幕
第一場 豪邸、いくつもあるお嬢さまの部屋のひとつ、プレゼント収納部屋
お嬢さまと、メイド女、父親。
お嬢さま 振り出しに戻ってしまったわね! (カードを見ながら)誰なんだろう? このカードの差出人は……
パパ ねえ、名探偵さん。実はパパは最後の容疑者が部屋から出てくるところに出くわしましたよ。
お嬢さま え!? なんでそれを先に言わないのよ! 誰なの?
パパ それは、容疑者といってもとても小さい可愛い容疑者だったからねえ。
お嬢さま ああ、子供のことね。その子は容疑者にも入らないわよ。
パパ そういえば、あの可愛い子は、パパのことをおじいさん扱いしたなあ。パパはちょっとショックだったなあ、まだこんなに若いのに。
お嬢さま 小さい子からしたら、大人は若くても、おじさんや、おじいさんなんでしょ! パパ今そんなことどうでもいいのよ!
パパ ごめんなさい。
お嬢さま (部屋の中を歩き回りながら)容疑者は、もう他にいないのに……5人全員アリバイがあって……この部屋へ入った5人……
メイド女 6人です。
パパ 6人だよ。
お嬢さま うるさいわね! 子供は入らないって言っているでしょ! 子供は……子供は……子供が?……子供……子供よ! そうよ、子供よ! アリバイがないのは子供だけよ! その子はどこの子なの?
メイド女 さあ、私は存じません。
パパ パパも知らない子だったなあ。でもどこかで見たような、見覚えがあるような感じだったなあ。昔見たような……
お嬢さま 昔? どこで、どこで会ったのよ! パパ思い出して!
パパ うーん。(お嬢さまを見ながら)うーん。……んんっ!(お嬢さまをじっと見ながら)会ったことが……(お嬢さまをまじまじと見ながら)似ているような……似ている!
お嬢さま 私に?
パパ ああ、似ている、似ているよ!
お嬢さま どういうこと? あらっ!(カードを見て)もう1つめくれるようになってる?
(カードをめくる)『ママへ』ママへ?
お嬢さま ママ? 私が?
パパ ちょっとかしてごらん。(カードを受け取って読む)『僕の一番大事な人へ、この有り余るお金を使って、世界を買ってプレゼントしようと思います。 ママへ』これは、息子からのメッセージじゃないか?
お嬢さま 私の息子からの?
パパ そうだよ!
お嬢さま え――――っ!!! じゃあ犯人は、私の息子だって言うの?
パパ パパはそう思うな!
メイド女 わたしもそう思います、そういえば、あのお顔は、お嬢さまの息子様といえば、本当にそのような。
お嬢さま ナンセンス! そして、アンフェア! 汚い、汚いわ! 犯人がタイムマシンを使うなんて! どんな名探偵でもお手上げよ! アンフェア! アンフェア! 断固作者に抗議するわ! 名探偵の私が、名探偵の……あれっ? 私の子供……カミナリに打たれたような……ずっとずっと待ち焦がれていた……地球をプレゼントするような! さすが私の息子! ああ! いい男に育ったわねえ! さすが私! スケールの大きな男の子を育てたわ! さすが、愛する人と私の結晶! さすが私! さすが愛する人!――あ、あ、愛する人?!!! そうよ当たり前だけど、その子には、母親の私と、父親がいるはずよ! 未来の私の旦那様が、今現在のこの地球上のどこかにいるはずなのよ! ああ、じっとしていられないわ! (メイド女に向かって)さあ! いくわよ! 物語はまだ続くのよ! 私の推理で本当の真犯人を捕まえるわよ! 運命の人専門名探偵として絶対に!(お嬢さまと、メイド女、部屋を出て行く)
パパ 愛する人を捜し当てる名探偵ねえ……ん?(カードを見て)さらにもう1つめくれるようになってる?(カードをめくる)『愛する妻へ、あなたの愛する息子と夫より』