オリジナル

日常に幸い

無法都市シナプスでの、うちよそSSを書かせて頂きました。
葉原エイトさん( https://x.com/utupico666/status/1915757532917948442?s=20 )お借りしました!

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むほシナ世界

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無法都市の通称を持つ「シナプス」────多種族国家「ハルディン」において無秩序な日常を築き上げる大都市は、今日も非合法や非倫理を受け入れる。街を歩けばガラクタを継ぎ剥ぎ重ねた移動式科学研究所も、反社会的勢力に処分された命を加工販売するファンシーショップも存在するこの都市で、その病院も商店街の路地裏を拠点に開業している。

「美容目的の整形ですか。少しお待ちください……ああ、この種族の目ならばストックがありますね。ですが、このまま移植すると視力が大幅に下がるので、脳か眼球の調整が必要かと。……それでは、此方の改良手術もオプションにつけておきましょう。設備は揃っていますし、今からでも出来ますよ」

穏やかな口調で進められる説明に、非正規医療を求めた患者は安心した様子で施術室へと向かった。臓器ストッカーを兼任している助手と共に、闇医者は慣れた様子で手術用の装備を纏い、扉の向こうへ姿を隠した。

美容目的の整形から始まり、機能不全を改善する為の臓器移植、堕胎、試験体の解剖、廃棄が滞った死体の処理。午後から立て込んだ仕事が終わる頃には夜を超えて、早朝と呼んで良い時間帯に差し掛かっていた。

商店が開く時間には早いが、体調管理と気分転換を兼ねた散歩には良い頃合いだろう。朝露に濡れる外気に合わせて薄手の上着を纏いつつ、仕事終わりの医師は朝の仄暗がりへと足を運んだ。


柔和さは時に悪辣を呼び寄せることがあり、頭に無法をつけられたこの都市でそれは顕著だ。背は高くとも猛々しさを示さない体つきと、おっとりとした口調に似合いの甘やかな美貌に、少し前から後ろをついてきている輩は強盗でも考えているのだろうか。

(軽い運動と思ったのだけれど、面倒な人達が集まってきているなぁ)

テトロドトキシン、二瓱もあれば人一人死に至らしめると言われる神経毒を、ヒョウモンダコの亜人である彼は有している。つまりは襲われたところで相手を制圧することは難しくない────事実、彼が振り返った瞬間を狙って襲い掛かった一人目と二人目は、刺し込まれた毒に悲鳴を上げる暇もなく倒れ込んだ。第ニ段階は超えているらしく、嘔吐後の運動麻痺から来る意味を持たない発声を繰り返す二人に、はてと彼は首を傾げる。

「もう一人いたと思ったのだけれど」

水分の多い物体が高いところから落とされたような、鈍く耳障りな音がした。続くパァンッと弾けるような音の後に、道の奥から鮮烈な赤色が流れてくる。逃げた先で別の抗争に巻き込まれた結果とするならば、早くこの場を立ち去った方が問題が少ないだろう。そんなことを考える彼に、聞き馴染みのある声が届く。

「エイトさん?」

「ああ、君だったんだね」


闇から擦り抜けるように出てきた男は、彼自身がエイトと呼んだ亜人の医師より一束半ほど背が高い。鋭い目つきと並んだ牙、筋肉質な体は大型肉食獣のそれによく似ていた。返り血はついていないものの、僅かに漂う鉄錆じみた匂いと破裂した音を繋げれば、その男が何をしていたかは明らかだった。

「大丈夫だった? さっきの人、ナイフを持っていたから」

「私は平気だよ。君こそ怪我は?」

犠牲者の転がる現場にそぐわない穏やかな言葉を交えて、エイトは溢れ出した触手の一本を男へ触れさせる。すり、と頬を撫でるように動く触手にくすぐったげな表情をして、肉食獣のような男は「大丈夫」と笑った。

「握ったら砕けるくらいの薄いナイフだったから」

「おやおや、君は本当に強いねぇ」

梔子。名前を呼ばれて男は幸せそうに目を細めた。足元に転がる男達を認識できないわけではないらしく、触手を指の腹で柔く撫でながら「その人達は」と問う。

「何処かへ運ぶ? それとも、此処に置いていく?」

「そうだね……見たところ内臓に顕著な異常はなさそうだから、施術室へ運ぼうかな」

「そっか、それじゃあ手伝うね!」

まるで買い物途中に偶然会えた恋人の、重い方の荷物を持ちたがる時のように明朗な声を出して、梔子は足元に転がる男二人を抱きかかえた。ふと自分が歩いてきた道を振り返り、彼は「もう一人は」と申し訳なさそうに言う。

「内臓をもらうのは難しいかもしれない。柔らかいところは全部弾けさせちゃったから」

「最初から採取する目的ではなかったからね。君が気に病む必要はないよ」

穏やかに微笑まれた梔子もまた穏やかに「ありがとう」と微笑み返す。一画の血だまりを残したままに、二人は病院へと談笑を交えながら向かった。


利用可能な部位を切り分け、処理を一段落したエイトが部屋へ戻ると、梔子は土産に持ってきたのだろう焼き菓子を机に出していた。

「お疲れ様です。クッキー持ってきたのだけれど、飲み物はどうする?」

「そこの戸棚にコーヒーがあるかな。君もコーヒーで良い?」

「ありがとう。このクッキーね、いろいろ味があるんだって」

二人分のコーヒーを並べたエイトへ、梔子がじっと眼差しを向ける。真直ぐに見つめる赤みの強い金色の瞳に、エイトは青みの強い紫の瞳で見つめ返した。しばし言葉のない空間に梔子は右の掌を差し出して、それからふわりと左手で覆った。

「エイトさんの後ろについていたから、少し移動して貰ったの」

向かい合わせだった距離を隣に変えて、梔子は掌の中身をエイトへ見せた。梔子────元人間の犬神の呪力に中てられたのか、何もない空間へ差し出していた掌の中では、薄赤い蛙のようなものが動いていた。それが胎児であることは、医師であるエイトにはすぐさま理解できた。

「これは胎児かい?」

「今日外に出たと言ってるから、手術中で此処に来た子かな。しばらくは僕と一緒にいようね」

科学的な立場にいるエイトにとって、この都市に集まるオカルティズムな能力は研究対象だ。その意味では死を経て呪具へと変容した梔子の存在も興味深い観察対象と言えるだろう。しかし、それを踏まえて。エイトは胎児へ話しかける梔子へ、真剣な眼差しを向けて問いかけた。

「つまりこの子は……私と君の子供と言っても過言ではない、と?」

「か、過言、では……? ……でも、エイトさんがこの子を子供と思ってくれるなら。僕も嬉しいし、この子もきっと喜んでくれる」

ありがとう、大好き。そう囁いて向けられた梔子の口づけに、エイトは普段の落ち着きに満ちた姿と異なる、初心な喜びで耳と頬とを染めた。

日常に幸い

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