オリジナル

ちょっとだけだよ「試作 コートラウス異世界へ・一日目」

なろう系進行を書こうと思って執筆中の作品です。
舞台は酒場シリーズの世界とは異なり、「スキル」というものが開発され、浸透している世界となります。

コートラウスを主人公としつつ、本作オリジナルキャラ・ロックの成長を一旦のテーマとして書く予定
まぁ現状はプチ難航の途中なのでエタる可能性も

…か、酒場シリーズの別世界編として考えるか

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ガシャン… 「っとと…ここは?」

鎧が音を立てて着地すると、立ち上がって兜を取らずに辺りを見回す。

…その鎧には、中身が無い。

ゴーレムのようなもの、と言えば取り敢えずは分かるだろうか。

その名前を「コートラウス」と言い、とある魔法世界より人工兵士計画を起源とする新興種族である。

地面に暫く手を付き、そして両手を上げる。

「…活動できない、というわけでは無さそうか。しかし魔力の感覚が大分違う。違う世界、というのは誇張を入れていたわけでは無い‥か?」

ふと、とある気配に気づく。

ガシャ‥ガシャ‥

彼はその正体を探らんと歩き出した。


その彼が気配を感じた現場では。

「っそぉ!」 ザッ 「ぐふぅっ」

とある一団が襲撃に遭っていた。

衛兵らしき者たちがぐったりとして周囲に転がっており、やや豪華な身なりの男が馬車の前で剣を構えるが

「お父様!」

「無茶です、レイウォン様!ただでさえ『剣術レベル5』がやられたのに…」

服のあちこちが切れており、息も絶え絶えである。

彼の娘たちが心配の声を上げた。

「『レベル3』では勝ち目がない…そう言いたいのか?舐めるな…スキル化して何カ月たったと思ってる…」

複数人の部下を従え、リーダー格が歩み寄りながら

「足が震えてるぜ?レイウォンとやらよぉ」

「くっ…」

そう言い止めを刺そうとして

「ぐふぁっ」 ドサッ 「誰だお前!?」

集団の片隅で起こった騒ぎが状況を止めた。

全身を鎧で覆った何者かが歩み寄り、リーダー格の男の前に立つと

「襲撃する理由は一体なんだ!」

「言う訳ねぇだろ?報酬が懸かってるんだからな…あ」

案外あっさりと大方の理由は判明した。

気の抜けた沈黙を挟んで、鎧姿が宣告する。

「今すぐ彼らを諦めて立ち去れ。さもなくば…」

「ほぉ?大層な自信を持ってるからにはさぞかし立派な『スキル』でももってるんだろうなぁ?」

「すきる?そう区分されるような資格は持ってないが…」

「なら大したことねぇなぁ?やっちまえ!」 「「おらぁぁ!」」

カキン ドッ 「ふっ」 スパァン

「…お頭、奴の中身がねぇ!」

「馬鹿なことを言ってねぇで早く仕留めろ」

彼への違和感に気付き、取り巻きが委縮を見せる。

「ここで退くか?」

「ハッ、まさかな!今のでお前が隠してるスキルは見切った。俺が確実に仕留めてやる」

下がりゆく取り巻きを押しのけ、リーダー格の男が歩み出る。そして剣を振り上げ、

「おらぁ!」 「ふっ!」 キィィン


「騎士様、ありがとうございます。」

「国仕えの経験はあるが過去の話だ。それにあの状況を静観していられる性分でもないからな」

がたごと揺れる馬車の中、頭を下げる三人。

聞けば彼らは貴族の一人であり、町政に携わるほどの身分らしい。

その身分ゆえ、政争による危険が付き纏うのが常であるとのことだが

「偶然を装った買収済みの傭兵を遣わされるとは思いませんでした。」

「…少し気になったのだが、その兜を取らないのか?」

侍女に魔法治療を受けながら、レイウォンと呼ばれていた男が尋ねる。

「正直に言えば私は人間ですらない。会話機能を持った人工の兵士と言った方がいいな。」

「魔法で動いている、と。俄かには信じがたい…だから『中身が無い』、と。」

「そういうことだ。多分、この世界にはない技術だと思う。」

「レイウォン様、私は彼の申し出通りに街の入り口に送るまでにした方がいいと思います。」

「元々、傭兵として過ごしながらこの世界がどんなものか見てみたいと思っていた。あとこの体なのでな…」

「そうか、食事はふるまえないか…と、見えてきたか。」

前の方を覗けば、少し高めの塀が見える。

「…外敵が居るのか。」

「ゴブリンやオークといった魔物から街を守るためです。」

「オーク…そうか。それなら」

多少ほど複雑な気持ちを抱えながら街へと入っていく。


「手続き、助かった。」

「危ない所を助けてもらった礼だ。ただ、これをもってギルドに向かうように。」

「恩に着る。…ここは?」

「スキルショップだ。無くても強いんだろうが、持ってないと舐められるぞ。なにより実力の証明になる」

「分かった、また寄ってみよう。」

そう言ってレイウォン達と分かれたコートラウスは、まずギルドの方へと向かった。

…情報収集の優先度が高いという彼の常識による選択である。


「なるほど、そいつが。」

「っそぉ、離せ!」

街の入り口、詰所でレイウォンの侍女が衛兵に襲撃者を明け渡す。そこへ

「…ふぅ~ん。中々面白いスキルを持っていたんだな。」

「おい‥」

鎧に身を固める衛兵が取り押さえている所を青年が歩み寄り、じっと顔を見つめる。

「うん、コイツに興味湧いたわ。キープしといて」

「…結果出なかったら分かってるな?」

「ったりまえよ。じゃあ、ちょっと出かけてくるぜ。」

「はぁ!?」

「コイツを下したコートラウスってスキル無しも気になる」

「お、おい!?ちょっと…」

青年が出ていった後、侍女が尋ねる。

「あの人は?」

「レバント、仕事ほっ放りだすほどのスキルマニアだ。野郎、やりたい放題やってるくせに実績出して上を黙らせてるから質が悪いんだよ。」


(ここがギルドか。酒場と役所が一緒になったような場所だな)

コートラウスの第一印象はこのようなものだった。

ただ、自分のような恰好は珍しいらしく、雑談の端々にこのような話題が聞こえる

「ん?アイツ、スキルを持ってない?」

「そんな感じだな。隠してる可能性も無くは無いけど、にしても酔狂な奴よな。」

「あの格好だろ?強いか弱いかの二択だな。」

「というかどこの軍兵なんだ?」

彼らともそのうち付き合うこともあるだろう。

だがその前にやるべき作業はやらねば。受付と思われる場所へ向かう。

「すまない。『ぼうけんしゃとうろく』?というものをしたいのだが…」

「ごめんなさい、登録はあちらにて受け付けております。」

(‥場所違いか)

間違い自体を彼自身は別段気には留めなかった。

むしろ軍を離れて街の傭兵として再出発した時に似た経験をしていたか。が、

「おう、新人。」

「なんだ?」

大男が一人、コートラウスに話しかけてくる。

「お前、スキル持ってんのか?」

「…いや、なにも」

周囲がざわつき始める。大男の表情は一層険しくなり、

「じゃあ、なんで冒険者やろうと思ったんだ?」

「傭兵として社会を学ぼうと考えている。」

…補足しておくと、この世界では傭兵としてやっていくにも基本的に冒険者として認知される必要がある。

ただ、その道に進むには実力の高さを知られていることが第一に上がるのだ。

そして、その指標の一つとして『どんなスキルを持っているか』というのも見られる。

…そんななか、スキルを持たずとなれば当然

「傭兵だぁ!?笑わせんな、強いスキルも持ってない論外が出来ると思ってんのか?」

「…スキルがそこまで重要か。」

大男が呆然とする。そして

「そんな常識も知らずに冒険者とは笑わせてくれる。或いはスキルに頼らず俺と戦えるとでも言いたいか?」

「あぁ、そうだ。」

「あぁ、そうですか…なら、試してやんよ!」 ビュォッ、ドガァ

言うなり、背中に差していた斧を抜き、振り下ろす。

「奇襲にしては予兆がわかりやすいな。」

「…下級すら持ってないスキル無し如きに本気出すのはもったいないと思っただけだ。」

「スキルとやらを詳しくは知らぬが、今はあくまでも”強さの指標“として見てるだけだろう?スキル化してないだけの技術は見ないのか?」

「ハッ、大口叩くじゃねぇか。返答次第じゃ親切にしてやろうかと思ったが、死んでも知らんぞ!」

笑みを浮かべた大男が再び斧を振り上げ、コートラウスが剣を抜く。


「っかしいなー…今度こそいると思ったんだけどなー」

レバントはスキルショップを見て回っていた。

(もしかしたらスキル自体を知らない可能性があるんだよな。となると聞いた限り行きそうなのは)

そう思い、彼が向かったのは街のギルドである。

(今日も一段と騒がしい…いや、喧嘩か?誰が…)

そう思い、ギルドに入るとそこには

「っらぁ!」ゴォォッ、カッ ガァン

「うぐぅ…」

ディラントという大男と鎧姿が喧嘩をしていた。その鎧姿が恐らく

「…コートラウスか?」

「あぁ、そういう名らしい。スキル無しなのにディラントと良い勝負をして…レバント!?」

その瞬間、場がざわついた。


「…コートラウスって奴を探してたんだが、ここに居たのか。珍しいスキル持った奴を倒したって聞いてな」

場がざわついた原因らしい青年の言葉に、目の前の男が不貞腐れる。

「あぁ、コイツは確かに強かったよ。そんなこと聞いてたら」

「別の理由でいつか絡んでた?…図星だな、ディラン」

ヘラヘラした様子の青年―レバントはディランというらしい大男を窘めつつ、こちらを観察する。そして

「ほんっとになんもスキル持ってねぇのな。門前払い喰らったろ?」

「そういうもんなのか。なる前にそこの男に勝負を仕込まれたから‥」

「便利だぜ?スキルは。持ってりゃ実力の証明にもなるし身につけたい技術だって身につく!まぁ、スキル経由で自分のモノにするには努力次第ではあるがな。」

そう言ってコートラウスの肩を抱き、ギルドから連れ出していく。

呆然とするように彼らは二人を見送り

「哀れ新人」

「まぁ、こんな社会だからな。あれはあれでいいんじゃね?」


「おう!おっちゃん」

「レバント、また…そいつは?」

半ば拉致されるようにしてコートラウスが連れてこられたのはとある店である。

店主らしき男が「またか」という顔を途中で崩して訊いてくる。

「冒険者としてやってくようだからスキルを見積もろうかと思って。」

「…わかった。そこの、何て名前だ?」

「コートラウスだ」

「そうか。災難だったな。ともかくここに座れ」

「いやおっちゃん!?ちょっ」

「手伝ってくれや」

「あ、了解」

『災難』という言葉に抗議しようとして、手伝いを頼まれて何やら本を取り出す。

(魔導書か。感じからして魔力を読み取って作業する感じだろう)

「で、スキル化で良いんだよな?」

「おう…あとあの鎧、中身ないぜ。」

「はぁ!?それ本当か!…おぉぉ」

男が珍しいものを見る目でこちらを見る。そして

「じゃあ悪いが…」

「摘出の魔導書だろ?」

「おう。ちょっと調整に入るからもう少し待ってくれるか?あとレバントは戻れ。」

「…わかった。結果でたら宜しく!」

そう言ってレバントが店を出ていった。

「じゃあ、始めるぜ」


気が付くと壁にもたれかかっていた。寝ていたらしい。

「…魔力で動いているお前でも寝ることってあるんだな。」

「無駄な消費は避けるに限る、ということなのだろう。」

「そういうもんか…ともかくスキル化は終わった。これがスキルレポートだ、どういうスキルを持ってるかが書いてある。」

そう言って男が渡してきたのは指輪である。

「…宝石部分を抑えて『スキルレポート』と唱えれば見れるようになっている。か、呼び出し用の呪文はそれで大丈夫か?」

「大丈夫だ。しかしそうか、そういうシステムがこの世界にはあるのか…『スキルレポート』!」

早速確認してみる。 ヴォン「うぉぉう…」

(空中に浮かび上がる仕組みか…そういう発想もありなのかもな。で、俺のスキルは…『剣術レベル9』、『応用術レベル5』…)

「『ユニークスキル』というのがあるが」

「あぁ、数えるほどしか持たないスキルの事だよ。普通のスキルと違って買ったりできないからね。」

「買えない?スキルを買えるのか?」

「それをするのがこの店の基本だ。足りない技能を補うための補完用だな。…価値の貴賎で差別が起こることが最近の社会問題ではあるがな…因みにお前のユニークスキルの名前は暫定だ。効果を推測して仮に名付けたに過ぎない。」

「…俺の得物じゃないんだがな。ともかく世話になった。」

「冒険者になるならツけとくよ。或いは『槍術』でも貸そうか?」

「必要なら買いに来る。世話になった」

コートラウスが店を出た後、男がハッと気づく。

「…いや、アイツの実力なら問題ないと信じるか。」


そして再び冒険者ギルド。

「では、こちらお返しいたします。依頼を受ける際はまた申し付けください。」

ギルドカードというらしい身分証を受け取り、手続きを終えたコートラウスは

(冒険者…見習いクラスか。で、仕事は掲示板から選ぶんだったな)

残り時間で依頼を受けることとした。

一通り掲示板を眺めてから

「では、周辺哨戒を受けたい。」

「すぐですか…かしこまりました。連絡を入れておきますのでこの時刻に西門でお待ちください」

「分かった。」

(…準備する時間は十分ありそうだな。少しだけ街中を周るか)

ギルドを出ると、通りを北に歩く。

(首都程ではないが、活気のある街だ。)

ただ、そういう感想が出る理由は良い意味ばかりではない。

「兄ちゃん、ちょっといいかなぁ?」

明らかにカツアゲだと思わせられる声色で声を掛けられる。

振り返れば複数人の荒くれらしき身なりの男達。

「…金なら持ち合わせは無いぞ」

「世間知らずだが話は早いようだ…スキルを寄こせや。」

(そんなことできるのか!?)

あまりの衝撃に硬直するコートラウスを、慣れた手つきで誘拐しようとして

「っ『ランナークェイク』!」

叫び声と共に地面を衝撃が走り、荒くれ達を襲った。そして

「なりを潜めて忘れられようたって無駄だ!」

「ディランか!?」

凶悪な笑みを浮かべ、地面から斧を抜いて大男―ディランが歩み寄る。

「ハッ、貴様らと一緒にされて辟易してたんだ。登録したばかりのコートラウスを張って正解だったなぁ?」

荒くれの意識はディランに集まっている。

思い出せばギルドの古い指名手配に見た顔がちらほら居るか。

―となれば、話は早い。

「ふっ」ドスッ、ガッ 「何!?」

隙を突いて鳩尾や首元を狙い、拘束していた者を気絶させる。そして剣を抜き

キィィン 「ぐわぁぁ」 「うぐぅっ」

慌てて抑えようとする者たちも迎え討っていく。一方で

ドスッ ズザザザ 「あわわわ‥」

ディランの方も力任せに襲う荒くれを薙ぎ倒し、荒くれ達のリーダーの前に立つ。

ふとコートラウスを一瞥し、

「なんだ、あの新人が場慣れしてるなら心配ないようだな。」

そして目線を戻し際に口角を上げ、リーダーを見下ろしてこう言い放つ。

「…俺たちの側は、の話だが?」

「わ…わ…悪かった!…そう、脅されたんだ!脅されて仕方なく‥うぐぅ!?」

「そいつは下っ端でようやく通じる言い訳だな。実働隊の頭の言葉じゃねぇ」

どうやらリーダーは抑えたらしい。部下たちも逃げようとするが

「逃っがさねぇぜ!大人しくするんだな」

衛兵たちが丁度到着し、包囲体制に入った。

…どうでも良いが口調からして発言主はレバンドだろう。


「手配の奴らで間違いないね。読みが外れてなければ一歩前進ってところだ、貢献証出すから詰所まで同行できる?」

「一向に構わんがコートラウスは」

「哨戒依頼を受けたのだが、間に合うか?」

「いや、次は西門のはずだったから今から向かった方がいいな。後で詰所…担当俺じゃねぇか!」

「じゃあ、私が引き継ぎますので。

「嬉しそうに何を…頑張れよ、コートラウス!」

最初にギルドで会った時の態度はどこへやら、ディラント達から応援されつつコートラウスはその場を後にした。

(ディランは譲れないプライドがあったというだけのことか。が、より酷い偏見の持ち主もいるのかもしれん。彼に目を付けられたからこそ、拗れた面倒事を起こさずに済んだのだろう…)


西門に着くと、冒険者仲間と思われる一団を見つけた。

得物も体格もバラバラであり、中には少年と思われる年頃の者も数人いる。

ふと剣を振る少年に彼の目が行く。

「…剣術持ちとしては気になるところか?」

「筋が良いな、と思ってな。…スキルがあるからなのか?」

「まぁ、剣術と一口に言っても独学か否かでだいぶ変わるから何とも言えんな。自分の技術をスキル化して子供に持たせる、というのはよくあるし…コートラウス?」

レバントの解説もそこそこに、コートラウスは少年の元へ歩みよっていく。


その少年は名前を『ロック』という。親は、居ない。

冒険者であった彼の両親は突如として失踪し、両親の知り合いたちによって今日まで育てられてきた。

形見は、両親が彼に遺していったスキルのみである。

しかし、年相応にしか伝授されていなかったために現役の両親に遠く及ばない程度にしかスキルは育っておらず、冒険者業についても先日見習いを脱出したばかりである。

この日も両親の手掛かりを追って哨戒活動に参加し、形見のスキルを育て…

「相手をしようか?」

聞き慣れない声に素振りを中断し、振り返ると鎧に身を包んだ者が。

「父さんのスキルじゃなくなってくるから要らない。あと誰?」

「おい、コートラウス!?」

衛兵が彼の元へ走ってくる。…アイツは確か

(…あの鎧、コートラウスっていうのか。…レバントに目を付けられてるし)

「その少年はロックって名前だ。スキルに関しちゃ誰の言うことも聞かん奴なのよ」

「なるほど。伸びしろのある動きだったから面白そうと思ったのだがな…」

「当たり前だよ、父さんの剣だから。」

そう自慢するロックの頬が少し緩んだ。

「そうだな、ロックの両親は結構な実力者だったよ。成長と共に少しづつ教えていくんだって言ってたな。」

「なるほど…」

そう返すコートラウスの声色はどことなく楽しそうだった。

「…コートラウス、お前今『伝授途中の剣術とやらを復活させてみたい』って思ってるだろ。」

「あぁ、そうだ。どう相手すれば余計なものを混ぜずに復元させられるか考えてたな」

(うっわ、余計な事言いやがったよ…あ)

辟易として目を逸らした先に前任の哨戒部隊が戻ってくるのを見た。


「あの鎧が例の期待の新人ってやつか。ロックの隣の」

「レバントが色々言ったんだとよ。極上の笑顔付きで」

「あー…付き合わされてるんだろうな。同情するぜ」

そんなベテラン達による丸聞こえの内緒話を背に、街に隣接する森林を進む。

(目的は生態調査…と、不穏分子の早期発見か。それにしてもレバントはかなりの評判らしいな。悪い意味で、のようだが)

そう考える横にはロック少年が居る。

…どちらかと言えばレバントの被害者と言えるのは彼だ。が、

(まぁ、聞いたところによると見習い冒険者っぽいよな…ちょっとくらい“遠回り”してもバレねぇだろ、何かあっても自己責任って言うし)

なんて考えるくらいには神経が図太い。

もっとも、数回の実行・失敗の末に彼には「お守」が付くのが慣例となってしまっている。

そして今回その役目を担うのがどういうわけかコートラウスというわけだ。

(何者かが潜伏しているな。)

ふと何かの気配を感じる。見下ろせばロックも同じ方向を気にしていた。

「…見に行くか?ロック」

そう訊くとロックは驚いたように見上げたのち

「そのつもりだけど…いいの?」

「まだ仲間が近くに居る内に調べておけば、孤立は免れるだろう。それに、ロックに心配されているのは」

「分かってるよ…というか乗ってくるとは思わなかったぜ。ともかく」

顔を合わせて頷くと、二人で目的の気配に向かう。


「…あれか」

「何匹居るか見える?というかいい加減その鎧脱いだら?」

何の気なしの一言ではあったが

「いや、無理だ。」

「なんでだよ、死ぬ訳じゃないんだろ?」

コートラウスは何故かこめかみを押さえる仕草をしたのち

「…声は抑えろよ?」

そう言うと、コートラウスは首元を確認したのちに兜を持ち上げて

「!!!…おま…」 (中に人が居ない!?一体どうなって…)

鎧の下、無い中身を知ってロックに衝撃が走る。

慎重に兜を下ろすとコートラウスはこう続けた。

「俺は見知らぬ世界の新興種族、と言ったところか。無人の兵士みたいなものだ」

「‥だったら、なんで喋って」

「何も喋らないよりは話せた方が人間は同行するときに気楽だろう?」

「…なるほど」

以降、ロックは彼の正体周りには触れないようにしようと誓った。ともかく

「…あれか」

目的地に着くと、そこにはオークの群れが居た。

「オーク…この近辺の個体、まだ生きてたんだな。ってコートラウス?」

「俺の居た世界では人類と肩を並べてた存在と同じ種族名でな。魔物として扱うにはどうも躊躇いが出る」

「…じゃあ、危なくなったら援護宜しく」 「ほぇ!?ちょっと…」

情けない声を上げて固まるコートラウスを尻目に、ロックが進もうとして

(今じゃねぇ‥)

警戒の素振りを見せるオークを確認し、踏みとどまる。

「オークの生態について何か知ってるか?」

「…豚の魔物で棍棒を使う、というのは見てわかるか。…縄張り意識も排他意識も強いらしい。それでいて繫殖力が高いし…!?」

オークたちが動いた。他の哨戒メンバーに気付いたのだろう。

「動く?」

「一旦黙ってもらうだけだ。」

そう言うと、割り切りをしたらしいコートラウスは茂みを抜けた。

ガサァ! 「ブォォォン!」 「ガッ、ガッ。」

(道具を使う野生動物、という認識がよさそうか。なら)

オークたちの注意を引き付け、観察する。一体が襲い掛かるが

(弱点と見る頭を殴るつもりだろうが‥)

コートラウスに見切れない動きではない。横にいなし際

「‥がら空きだ!」 スパァァン

横薙ぎ一閃で浅めに斬り伏せる。

(…戦術に拘りを持つでも無し、俺の知ってるオークに比べれば)

倒れるオークに剣先を向ける。

仲間と思われるオークたちも襲い掛かるが

「攻めが甘い!」 キィン ザッ スパァン…


かなり強い、というのが傍から見たロックの感想だった。

(加勢した方が良い?でも下手に手を出すと不利になる状況もあるって聞いたことあるし…)

そのせいで、加勢していいかどうか迷っていた。が、

「ブァァァァ」 「うぉぉ!?」 キィン

コートラウスの戦闘に気を取られ過ぎていたらしい。

危うく一体のオークの不意打ちを受けそうになり、間一髪のところで防いだ。

…思えばオーク相手は初めてになる。

「ロック、大丈夫か?」

「…分かんないッ!」 ブォン、ドガァ

いや、避けるので精いっぱいだ。

「相手の動きをよく見ろ!行けると思ったら攻撃するんだ!」

「ブォォ!」 「っぃいやぁッ!」 カッ、ザン

気付けば他の皆も加勢していた。が、

(気にしてる場合じゃない、自分に余裕を出してから周りは…)

後で思い出せばコートラウスは複数を相手していたように見えた。ともかく

ブゥン、ゴォォッ「ッ…そこだ!」 ドスッ 「!!…」 ダッ

止まった剣を抜いてロックが下がる

(剣が通らない…でも隙は見えた…)

「ッ『スラスト』!」 ズッ 「グオォォ…」

狙いは外れたようだが、技が通った。

が、オークと目線が合う。 (しまっ‥回避が‥)

ビュォッ、スパァン 「ガァァァ…」

「ロォーック!無事かぁー…」

「おうよ!」

先輩冒険者の風魔法がオークを仕留めたらしい。

しかも、自分が苦戦しているうちに事は終わったようだ。

…安心した仕草で剣を収め始めるコートラウスが目の端に映る。


(無事、切り抜けたか。しかし)

事後処理に、と周りを見渡していたところに冒険者仲間がこっちに近づき

「っかし、知らせる余裕が無いなら退こうぜ?コートラウスさんよ…最悪、死ぬよ?」

(…そうだった。オークに気が向きすぎたか)

そう考え、謝ろうとしたところへ

「いや、死なないよ。」

ロックが口を挟む。

「刺されたって死なないから、コートラ…」

そう続けるロックの口を塞いで

「以降、気を付ける。」

そう返した。

「どういうことだ?」

「追々話せるときに話す。」 コンコンコンコンコン…

手の甲を叩く音に気付き、ロックの口から手を離す。

ロックは息を調えると

「分かったよ、あれは秘密ってことだろ?」

「考えれば易々と明かすことでもなかったな。元居た故郷とは違うのを忘れていた」

そう言いあうコートラウスとロックを見て、彼は思う。

(割と早く打ち解けたな‥まぁ、気心知れた仲間は多いに越したことは無い。他の地方の人間と交流が出来るのはどのみち…)

彼が心を閉ざしていた時期を知る彼にとっては十分ほほえましい光景であった。


この日ははぐれオークとの接触以外それと言った異常も無く

「結局、本命は見つからなかったな。」

「あぁ…デマで済んでくれねぇかな、どうせなら」

「だな、お貴族様のくだらねぇゴタゴタ、演劇で十分…と言いながらそれで食えてるところもあるから文句言う筋合いは無いのか?」

「半分な。むしろお貴族様の支援があってこそだから、だろ?」

「ハッ、そいつは違いねぇ!」

余裕の出来た冒険者達は時事めいた雑談に興じる。

その一方で彼らは

「…コートラウスさん?」

「いや、立場上呼び捨てで構わない。」

「コートラウス‥は、元居た国で何してたの?」

「元々帝国の兵として制作され、戦場に出された。その傍ら、旅の傭兵身分として…こちらでいう冒険者というのか。そういった身分で働いたこともあったな。」

「じゃあ、一応こういうのは慣れてはいるんだ。」

「そうだな。その帝国軍もある時を切っ掛けに大幅に縮小された。それからはとある街で傭兵稼業や新人教育をして過ごすようになったな。」

少し間を置き、天を仰ぎながらこう続ける

「…まぁ、お前に話しかけたのはそういった経験から芽生えた興味が大きい。」

「ふぅん…で、俺のスキル、真似しようとしてたんだ?」

(さすがに気付いていたか。)

「あぁ、そうだ。未完とあらばどう成長させるつもりだったのか、予測を立てようと思ってな。」

「結局俺のスキルに口出しするつもりだったじゃん」

そう言われ、コートラウスは黙った。いつかレバントが言っていたことを思い出す。

―スキルに関しちゃ誰の言うことも聞かん奴なのよ…

「あぁ、もし気に障ったなら」

「いや考えとく。コートラウスさんなら見てもらってもいい気がしてきた」

「…そうか。」

コートラウスは少しほっとした。


別のエリアを回っていた者達も合流する。

「おう、お疲れ…オークが住み着いてたか」

「ロック達が見つけたのさ。知らせもしねぇで水臭い野郎共だ」

「なぁ…感想、間違ってねぇか?」

「やべっ!?本音が出ちまった」

そんな会話が繰り広げられるなか、

「おう、コートラウス!どうだった?」

底抜けに明るい声の衛兵が声を掛けてくる。そんな知り合いといえば

「レバントか。」

「スキル、どう…使うまでもないって感じみたいだな」

「一度に何個も持てないみたいでな。ユニークスキルとやらを一つだけだ。」

「お?どんな感じだったんだ、ロック」

「知らねぇよ!というか初耳だし!」

面倒くさい、という態度をあからさまにしてレバントに噛みつく。

「まぁ、隠し玉って言うなら無理に見せる必要はねぇ‥」

「魔法で出来た槍、と言ったところだな。俺の世界では割と使われている武器だ。腕輪に呪文を刻んで使うのが一般的だな」

「…あっさりと教えたな。ともかく、コートラウスもそれを?」

「練習したことはあったが、俺には上手く扱えなかった思い出がある…」

そう言って、レバントの方を見る。

「…スキルでしか使えないが、良いのか?」

「覚えるに越したことは無い。教えてもらえるか?」

「了解!いやー、楽しみが増えたぞぉー!」

そう言ってスキップしながらレバントが先行していった。

ぎこちない動きで二人が顔を見合わせると

「…衛兵って、自由なものだな。」

「いや、あいつが特殊なだけだから。」


依頼を終えた冒険者はギルドに集まり、土産話を添えた食事で疲れを癒す。

コートラウスの居た世界もそれは変わらない。一つ違うとすれば、役所めいた一角があるかどうかの違いだ。

「姉ちゃん、今日の依頼(の消化具合)はどうだったい?」

「治安関係が不安になってきたわね。今日来た新人がその方面に強そうだから頑張ってもらおうかしら。」

「アイツか…聞けば即戦力として優秀って話だ。俺も負けていられねぇな!」

「ふぅ~ん。じゃあ、期待‥」

「ヘイヘイ、懲りずにナンパかぁ?」

「違ぇよ!」 「ハイ、お約束ぅ!」

呑む場所も変われば、このような酒場では思いつかない目線の雑談も発生する。

「早くも期待される身分というわけか。」

「よっぽどのスキル至上主義でもない限りはあの戦いっぷりを見て弱者とは思わねぇよ。」

「だが持ってないのは論外というわけか、初対面みたいに。」

「まぁ、持たずに冒険者は出来ん。まぁ、強さに見合ったスキルは持っておかないと、またあのように絡まれるな。強さで納得しないバカも中には居る。」

今現在、コートラウスと呑み交わしているのはディランという男である。

「一人だけ空コップというのも虚しくねぇか?」

「慣れるしかあるまい。というか慣れてくれ。せめてこれでもないと呑みの会話もできないだろ?」

「そういう問題なのか?」

ディランが呆れ顔を見せる。その流れで逸らした目線が

「…お?」 「なんだ?」

背もたれから身を乗り出して注目する先、フードを目深に被った、何処か見覚えのある男が神妙な顔でギルドに入ってくる。

(確かこの世界に来て最初に出会った人間‥そして貴族という身分だったか。)

「ハッ!?レイウォン様、本日はどのようなご用件で?」

上着を脱ぐと、レイウォンは内ポケットから手紙を一つ取り出し

「衛兵にも知らせてはおいたが、これを持ち込みに来た。頼めるか?」

カサッ、ピラ… 「…脅迫状、ですか。分かりました」

応対に当たったギルドの女性職員の一言で場が静まり返る。

ガタッ 「スキルショップに行ってくる。」 「俺もついてくぜ」

一人、また一人とギルドの戸を開け、夕焼けの街へと消えていった。

「…俺は参加するつもりは無ぇ。が、関わらねぇ保証も無いか。」

「それは哨戒前のごろつきの件か。組織的に動いてるって解釈で問題ないか?」

「あぁ、後輩が被害に遭ってんだ。冒険者として放っておく訳にはいかん」

そう言うとディランは酒を飲み干し、

「まぁ、そういう訳があるから業界に入る人間を試してたってことだ。」

「なるほど物騒なご時世だ…と」

時計を見て、コートラウスは立ち上がる。

「お出かけか?」

「レバントに面倒を見てもらう約束をしててな。」

「徹夜はするなよ?…仮にお前が大丈夫だとしても奴ならやり兼ねん」

「…肝に銘じておく。」

そう言い、席を発った。

しかし、その約束は果たされないこととなる。

「緊急夜勤が入って残念という顔だな、レバント」

「いいもん。見る機会が無くなるわけじゃないし…」

レバントが残念がったのは言うまでも無い…


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