騙ると語るは二重の君と
むほシナ公式イベント「すくう侵略者」( https://x.com/City_synapse_TL/status/2020454095329407319 )に参加させて頂きました!自機の菩薩と狸面がニタリさんと遭遇する話です。
菩薩:自認は少年だが修羅が自分へ「姉様」を望んだので「愛らしい人形の姉様らしい」振る舞いをしている。
狸面:DNAを取り込んだ相手の姿を模せる。楽々は実子なので「狸面要素の遺伝子分」を模せない。
騙ると語るは二重の君と
むほシナ公式イベント「すくう侵略者」( https://x.com/City_synapse_TL/status/2020454095329407319 )に参加させて頂きました!自機の菩薩と狸面がニタリさんと遭遇する話です。
菩薩:自認は少年だが修羅が自分へ「姉様」を望んだので「愛らしい人形の姉様らしい」振る舞いをしている。
狸面:DNAを取り込んだ相手の姿を模せる。楽々は実子なので「狸面要素の遺伝子分」を模せない。
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【人形にて騙るは姉姿】
「お前、そこにいたの」
声をかけられた生人形は、聞き馴染んだ声に振り返る。生まれついた時から自らの喉と共にある声は、しかし目の前に立つヒトガタから向けられている。無駄な曲線を持たず性を感じさせない体に、うなじにかからぬ程度の青みがかった銀髪のマッシュヘア。丈の短いバルーンパンツをサスペンダーで吊って、シンプルなワイシャツには首元にリボンタイを結んでいる。
焼け爛れる前の自分と認識したその姿が、次の瞬間には早送りのように燃え盛った。化学薬品と人間、欠けた部分を代用するパーツの焦げる匂いがした後、焼け溶けた体はすっかりと包帯に包まれて新たなボディパーツと接続されていた。今日の自分と同じ、まだ冬を滲ませる春の昼間に似合いのコートとブーツを身に纏っている。
「あら、どちら様。わたくし、自分の弟以外に生き人形の知り合いなど持っていないのだけれど」
「わたくしなんて可笑しな呼び方をして。ぼくは自分のことを、ぼくと呼んでなかったかしら?」
目の前の一体が言うとおり、今でこそ所謂「お嬢さん言葉」のていを取っているが、当初は自分を乙女など思っていなかった。……否、今も演じているだけのその立場は、唯一の片割に与えられた日から変わらない。
「それでいて、あの子に『弟』の役割を与えてしまったのもお前でしょう。ぼく、それとも『姉様』とお呼びする?」
「本当に、どうしてこんなところに『ぼく』がいるのかしら。わたくしは『修羅の姉様』であって、殺戮人形であった頃のお前は、必要ないというのにね」
はしたないお前がいては、可愛い修羅が怯えてしまうね。苛立ちを隠しもしない声を紡ぐも、菩薩はまじまじと自分の生き写しじみた姿を見つめる。真っ直ぐに菩薩を見つめていたニタリはしかし、彼女の後ろから近づいてくる重量を感じる足音を前に姿を揺らがせた。
「あら、もうおかえりに? 随分とお急ぎのようだね」
「意地悪をお言いでないよ。ぼくはお前と会う為に来たのだもの、他の人間に会う理由があって?」
「全くつれない言い方だ。けれども、良いよ、お行き。わたくしはわたくし一体で十分だもの」
「菩薩様、誰と話をなされているんです?」
「百目亀ったら、随分ゆっくりとお散歩をしていらしたのね。わたくしったら待ちくたびれて、つい一人語りをしてしまったわ」
「そんな意地悪を言わんでくださいよ。貴方は次々に遊び場を変えちまうし、今日のボディなんざ小さくて細っこいからどこにでも潜り込んじまう」
「あら、淑女の体つきに文句をつけるのははしたなくてよ。お前にはそういうデリカシーを学ぶ場所が必要かしら。いっそのこと馴染みのお店の方に、手取り足取り教えて頂いたらよろしいのではなくて?」
「本当に意地悪ばかりを言って……今日は修羅様へお土産を買っていくんでしょう? 此処で遊んでいる暇があるんですかい?」
ペットであるカミツキガメ型獣人の言葉に、主人の片割である生き人形は悪戯な少年じみた目を瞬かせ、柔く笑った。
「そうね、お前の言う通り。可愛い弟の為に、姉様であるわたくしが過去にまどろむ暇などないのだわ」
◇◆◇
【狸の語る現の形】
「あれ? 君は随分前、シナプスの外で出会った筈なのだけれど、もしかして年を取らない種族の人だった?」
「ううん、違うよ? 俺は野晒の白徳利だもん」
のんびりとした口調を交わし合う二人は同じ顔を突き合わせている。黒と桃色が特徴的な瞳で見つめ合った後、片方が両腕で抱いていた30kgの米袋を右肩に担ぎ直して見せた。瞬間、170cmの青年は190cmの筋骨隆々とした中年男性に変わる。するとどうしたことか、目の前の青年も白徳利が目を合わせた瞬間に同じ姿になる。
「本当に俺みたいだね。楽々に教えてもらった学校の本に、そういう話が載っていたような気がするけれど……やまびこ? ブロッケン現象? 俺、あんまりそういうお話詳しくないんだよねぇ」
微妙にずれた答えを出しながらも、目の前に立っている謎の人物を警戒している様子はない。或いは彼自身が「誰かに成り代わって」生きてきた為に、無意識の親近感も持ち得たのかもしれない。経験によって培った悪徳もまた、相手に攻撃を向けない理由ではあるらしいが。
「君に悪意があるなら、狸面の顔を使ってUNTあたりで暴れる方が大ダメージだもんねぇ」
少しばかり含みを持たせた言葉を向ける白徳利に、相槌を打つように悪い笑みを浮かべたニタリが言葉を接ぐ。
「それか楽々の姿で近づいて、俺に襲い掛かる方が確実だよねぇ、まぁ、俺にはそんなこと出来ないんだけど」
「ああ、そこも俺と同じなんだねぇ。俺も楽々にはなれないよ。するしないじゃなく、出来る出来ないの意味で」
なんでかは分からないんだけどねぇ、なんて笑う白徳利は米袋を足元に降ろし、今度は110cmほどの華奢な少女に変わった。目の前の白徳利、否、ニタリも同じように少女の姿を模し、ゆるゆるのTシャツをワンピースのように纏っている。自分の足の倍以上あるスニーカーをかぽかぽと鳴らしながら、白徳利は「このくらいしか近づけない」と笑う。
「毎日一緒にいる楽々にはなれないのに、随分前に失踪した無責任野郎には化けられるんだから不思議だよね。ま、楽々に『身重の母さんを置いてった無責任野郎なんて覚えておく必要なくない?』って言われちゃったから、楽々の前で化けることはないのだけどさ」
「全く、楽々は厳しいねぇ。覚えておかなくても化けられる姿に、まったく少しの興味もないみたいだ」
くすくすと面白がりながら白徳利はまた姿を変える。普段使いのその姿は、彼が「狸面」の名を持ってから愛用している形だ。彼のまだそう長くない半生の中で、けれども自分と素直に名乗れる場所で生まれた姿を、なぞる。
「君が俺のなんなのかは分からないけれど、俺の真似をしたいならしてて良いよ。別に真似がしたいわけじゃないなら、別の姿になるのも良いと思うし。まぁ、俺は狸だから、狸八化け、遊び化け、って感じだけれど」
狸は楽しいから化けて見せるんだよ。そう言ってのける彼はすっかりと狸である自分が板についている。ニタリもくすくすと面白がるように笑いながら、人の足音と共にするりとその場を後にする。その姿を追うこともなく、狸面は「よいしょっ!」と米袋を肩に担ぎ、独り言を口にした。
「さぁて、帰ったら残ったご飯をチキンライスにしちゃお。薄焼きの卵で包んで……そうだ! 楽々とバンメンの皆に、可愛い旗も作っちゃおう!」