香る賑わい
【本日の天気 雨、時々黄梅】( https://x.com/9376Hatks/status/2061105121896120590 )に参加させて頂いています!それぞれの場所でイベントSSです!
もやし野たけひこさん(@9376Hatks)宅より、会話文と描写で矢車婦人/黄梅さん/銀嶺さん/宇無さん/八咫さんをお借りしています。
香る賑わい
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「百目亀。貴方って案外、こういう催しごとでお淑やかな子ね」
「俺の手じゃあ梅が小さすぎます。周りも梅に目が行って注意力散漫な奴らが多いし、うっかり踏んづけたらコトでしょうが」
「あらあら、オトコノコが言い訳なんて見苦しいわ」
そう言って百目亀をからかいながら、菩薩は籠の中の梅を優しく撫でる。元々汚れ一つない果実は潰さないように表面を触れると、黄梅はつるつると艶やかで、青梅はまだ少し産毛を残している。梅酒などにするには、この産毛がすっかりと落ちてからの方が良いらしい。
「可愛らしい方ね、黄梅さん。矢車婦人も美しい方」
「菩薩様は黄梅さんみたいな中性的な子好きっすよね」
「お前みたいに体の相性にばかり執着はしないの」
「やめてくれませんか人を性欲の権化かの如く」
「週一で風俗通いするペットは性欲の権化以外の何者でもないと思うのだけれど」
小さなボディに着替え、可愛らしいワンピース風コートに合わせたブーツで、濡れた道にぴちゃんと音を立てる。落ちた雨が梅を濡らすと、仄かな銀色に煌めいた。ふと、菩薩は一つを零す。
「あの方、梅も梅のお返しも、惜しみなく分け与えているようね」
「……謝罪の手際が良すぎると?」
「あら、貴方も気にしていたのかしらん? ……なぁんて。百目亀はリスク管理に人一倍敏感だものね」
人を悪意的に考えるのはお前の悪い癖。などと口では言ったものの、菩薩は百目亀のそういう誠実さを好んでいる。人を妄信せず、責任を押し付けない。相手が真っ当な善人であれば、心からの罪悪感を持つ。そもそも、好意がいつも人の為に作用するとは限らないのも、悲しいことだがこの世界の真実だ。
「わたくしは好きよ、ああいう方。だから、この梅雨も静かに見守りたいわ」
全てを見通せるとは思っていない。ただ、夢見がちな少女のような感想を口にすれば、百目亀は「主人の命令」として、小さな梅を潰してしまわないよう、大事に大事に拾うだろう。少し前を踊るように動き回る修羅が、菩薩と百目亀に手を振っている。
「姉様! それに百目亀! このくらいあったら梅ジャム出来る? 黄梅ちゃんにも返すんだろう?」
籠を見れば二人の倍は集めているようで、姉弟で楽しむ分には十分だろう。俺が運びますよと手を差し出す百目亀に、修羅はつまみ食いすんなよと笑いながら素直にその籠を差し出した。
百目亀:15個
菩薩:7個
修羅:51個
◇◆◇
「此処の人達は穏やかネ。梅を拾っては見せ合ったり、小さい子にあげたりする子もいるヨ」
「皆それぞれに生きてるからなぁ、マイペースな住民も多いんだ」
「ふふ、黄梅もワタクシも、歩くたびにお茶やお菓子を勧められているわね」
「おや、それはすまない。貴方達より年下の子もいるのだが、つい自分の種族の感覚で子供と思ってしまう子もいるらしい」
「ワタシ仲良く出来るの嬉しいヨ! お茶会も楽しいネ!」
大きな倒木がそのままテーブルになったのだろうそこに、ジャムやスパイス、焼き菓子に紅茶を並べ、席を囲む。楽しいなら良かったと微笑む目緋絲が撫でるテーブルは元々この逢真贋刻郷に生きるトチノキだった。250年ほど郷で生きた仲だが、それでも50年ほど前に倒れてしまった。テーブルとしてお茶会を共にしているのは、トチノキたっての希望であった。
「この木は昔から木工細工に憧れていてな。他の木には悲鳴をあげられていたが、よく儂に仏像など彫ってみないかと誘っていた。人間でいうピアスとか刺青とか、透ける? スケアリー? フュージョンとかいうものに近いらしい」
「透けるナントカはよく分かんないケド、アグレッシヴなお友達とは分かるヨ」
「それならこの側面の彫刻は、お友達の希望かしら」
「ん、儂と何人かで引き受けた」
本人の願いとはいえ友の体を傷つけられない子もいて、元に願われたようにはならなかったことだろう。それでも「仕方ないなぁ」と笑ってくれるようなトチノキだった。懐かしむように目を細めながら、何処か考え込むような表情をする男性達を見やる。銀嶺殿は皆の守り神であり、友人の宇無殿は宇宙を宿していると聞く。八咫も思慮深い子だから、今回の出来事に何かを感じ取っているのだろう。
そう考える目緋絲も、山の生き物として曖昧ながらに違和感は覚えている。それでも、客人がお茶会を楽しむ今もまた、事実として存在しているのだ。
「他の土地にも向かうのだろう? 此処は大概のんびりとした土地だから、疲れたら休憩地にすると良い」
「素敵なお申し出ね、ワタクシも黄梅も喜んで」
「アリガト! 目緋絲も拾ってネ!」
「勿論、儂も楽しませてもらうぞ!」
緩やかながら確実に時間は流れていく。それでも互いの縁を交えた時間は、消えることなく一生を彩った花となる。
目緋絲:2個
◇◆◇
「セレエラもジンマオも運動量えぐくない!?」
梅の雨が降る中、オターリアは呻き声とも悲鳴ともつかない声をあげる。鰥寡孤横丁に比べれば治安が良いものの、逢真贋刻郷に比べれば人口量の多いAmalgaMateSでは、梅を拾うという行動もなかなか至難の業である。魔法少女ミルラと共に魔法生物マスコットをしているオターリアは、先ほどから梅を拾う度に通行中のスライム人にぶつかって謝ったり、通行中の石系巨人にぶつかって跳ね飛ばされたりしている。
「オターリアさん人込み苦手ですか? この生き馬の目を抜くシナプスで?」
「生き馬の目を抜くって難しい言葉知ってんね……人混みがって言うか、俺あんまり歩行自体上手くなくて」
「えっ! ごめん、普通に歩いてるから気付かなかった……もしかして今も痛い?」
驚いてやってきたジンマオに慌てて「違う違う」と答えながら、オターリアは「実のところ」と自分の擬態を少しだけ解く。見れば靴を脱いだ足先が、レモン色の鰭のようになっている。
「オターリアって人魚なの?」
「魚類ではなく鰭脚目ですかね? ああでも人魚も魚類とは確定していないか」
「俺あんまりそういう話詳しくないのよ。土地ではコウモリとオットセイのキメラって言われてる」
「それなら歩くの苦手そうだね」
「どちらも二足歩行ではありませんものね。あ、セレエラの兄姉が使ってる自動移動装置使います?」
これなど装着型なので安定しつつ目立ちません、なんて言いながら鞄から機械を取り出すセレエラと、そちらをセレエラに任せてせっせと梅を拾い続けるジンマオ。二人を交互に見つつ、オターリアが何気ない問いを向ける。
「二人って好きな人いる?」
「僕はパートナーがいる」
「セレエラはまだいないです! オターリアさんは?」
「俺はその……いる……」
「一緒にいる魔法少女の子?」
「!?」
「おや、ジンマオさんはオターリアさんの好きな人、知ってるんですか?」
「共通の知り合いがいるので」
淡々と話すジンマオにオターリアが心の中で友人かつ未来の義兄の頭をひっぱたく。まったくおしゃべりめと思いつつ、この年で恋バナが出来るとは思ってもなかったオターリアは少し笑った。
「はい、完璧。これで少しは楽な筈です!」
「ありがと。梅集め頑張るわ」
「荷重制限もあるだろうし、重いのは僕が持つよ」
「荷重制限掛かるレベルまで集めろってコトね、了解」
気の合う同級生のような気軽さで声を掛け合いながら、三人はまた黙々と梅集めに勤しむのだった。
セレエラ:97個
ジンマオ:97個
オターリア:63個