「以上の事から、奴は今回の件で我々に危害を加える存在ではないと証明された。」
やや年老いた男の前、クラッシュと呼ばれた男は頭を下げて報告を聞いていた。
謎の魔法使いの帰還を見届けて数日後である。
「それとは別に、だ。今回の戦闘での結果から昇進を検討している。これについては追って報告する。以上」
「分かりました。」
そこまで聞き、回れ右をして部屋を出ようとしたところで後ろから声がかかる。
「我々を動かす想定の上計画を立てる奴だから把握済みかもしれん。が、一応今回の判断を伝えてはくれないか。」
「大丈夫、そのつもりです。」
宜しく頼む、の声を背に部屋を出ると
(今すぐにでも伝えとくか。聞きたいこともあるからな。)
そう言ってプラザムの部屋へと歩き出した。
とある宇宙船の一室、姿見を前に何故か元のアンドロイドの姿のままプラザムは試着に興じている。
(そういえばあの娘の名前、聞いてなかったな…中々に度胸のある奴だったし。まぁ、少なくとも魔法とは縁遠い世界ではあったんだろ。魔法の使い方が初心者っぽかったし…
いやしかし、だ。見よう見まねで女を演じるのは難しいな。服を着れば何か思いつくと思ったんだが)
そこまで考えたところで部屋のチャイムが鳴る。
ガチャ
「あ、クラッシュ先輩!僕です、ファー…リー…」
待たせてはいけないと玄関を開け、返事をする途中クラッシュの唖然とする顔で気付く。プラザムは人への変装も忘れていた。それならまだいい、よりにもよって麦わら帽と白いワンピースである。
「…何を企んでるのかは知らんが入るぞ。」
「いや、これはですね?えー…」
「で、だ。それを脱げ」
「はい…」
ひとまず『ファーリー』に変身し直して話をすることになったのだった。
「…じゃあ、特に気にすることは無いと。」
「あぁ、そうだ。捕虜兵の証言からお前の計画の裏が取れた。それにお前の偽装工作については作戦班の功績となったそうだ。現在仕組みを解明し、取り入れるらしい。」
「あ、そうなんですか!?言ってくれれば技術くらい教えるのに…」
「…解った、伝えておく。あと、俺に対する借金の件だ。百歩譲って利子が付く、という主張は飲み込む。今どき闇金ですらこんな金利は取らないぞ?」
「下宿費用ということでお納めいただけませんかね…」
「俺の愛機の修理で十分なんだが…」
「それについては趣味、ということで…」
(…ここでやめておくか。納得するしかないな)
というのも、クラッシュはこのことで深く追求し、『知らない!ボク知らない!知らなーい!』と叫びながら逃げられたことがある。謎の魔法使いを見送った直後だったか。
なので、一番新しい疑問をぶつけることにした。
「なら、最後にだ。」
「…あーはい。」
「あの服はどういうことだ。」
少しの沈黙ののち、彼が話し始める。
「…今まで、ああやってですね?人間に溶け込むじゃないですか。」
「あぁ、そうだな。」
「ずっと男だったんですよ。別人を演じるにしてもやっぱり男でですね?」
「…言いたいことは分かった。でも、必要か?」
「損にはならないのかなー、と思いまして?」
「ハァ…まぁ、頑張れ。以上だ。失礼する。」
そう言うとクラッシュは異様に疲れた様子で部屋を後にした。
(だが、まぁ…内容は違えど奴は『ファーリー』として出会った時からああいう感じだったな。奴は奴、ってことか)