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カッ ヒュン キィィン…シュパッ!

「反応に対してまだ対策が甘いな。パターンに乗せてやればすぐに隙は作れる」

「‥はい。」

街の片隅、小さな広場で若者達と剣を打ち合う鎧姿がいる。

「ありがとうございました、コートラウスさん。」

「あぁ、歴に対して覚えが早いから自信を持って構わない。ただ、意識しないと悪い癖が染みつくから気を付けることだな。と、これで一通り見たか。よし、まだ来たい奴は前に出ろ!」

酒場での依頼により、傭兵団の新人達に稽古をつけている所である。

「クッ!」 カラン

コートラウスがよろめき、剣を落とす。

「今だ!やぁっ…」

「甘い」 ドスッ

「参りました‥うぐぅ…」

「…態勢が低くなってるのに剣を振り上げるのは悪手だな。蹴りでの迎撃を狙ったのならともかく、だ」

「コホッ‥すみません、油断しました。」

「まぁ、少し意地悪をして搦め手を使ったのは謝る。が、人間のモラルを持つものばかりが立ちふさがるとは限らないからな。実践に駆り出されたいなら考える余裕を持てるように、ってとこだな。」


「コートラウス、お疲れ!うちの若い者はどうだった?」

酒場に戻り、カウンターに向かう途中で男が声を掛ける。

「あぁ、なかなかの物だ。思わず搦め手を掛けちまったが、今思えば奴らには早かったという反省はあるな。後でフォローでも入れといてくれ。」

「じゃあ、また彼らを頼むってことでどうだ?」

「分かった。その時は一声頼む。」

…彼は、この街で活動する『ライホン傭兵団』の団長である。

彼がまだ一介の傭兵であった頃からの付き合いだ。

「…しかしそうだな、こんな間柄になるとは昔は予想してなかったっけな。技術も進歩するもんだ。」

「そういえばそうか。確か俺に人格が導入されて初めての実践投入にお前が居たんだっけか。」

「だったな。」

「…すまない、雑談が絶妙にかみ合わなかったと聞くが。」

「ん?…あぁ、そりゃあ!最初の頃のお前なんか人間関係の悩みを戦術用語で受け答えするんだもんなぁ。ただ聞くところ、かみ合わなかったどころか結局手助けになってたって話だ…それでもぶっちゃけその程度か、と後で盛り上がったもんだが。」

「そうだったか。…っとカウンターでの話がまだだったな。続きは後で良いか?」

「おうよ。たまには昔の事でも話さないか」

「あぁ、そうだな。また。」


請け負った仕事の報告を済ませ、食事(コートラウスは中身が無いので機械と電池の関係みたいなものにはなるのだが)を受け取って彼の元に戻ると二人でグラスを手に取り

「では、乾杯!」

「乾杯!‥えーとどこまで話したっけ?」

「俺の初仕事だな。まぁ、軍外の仕事では事あるごとに会った覚えがあるが。」

「あぁそうだった、そうだった。お前だけに限った話じゃないが、“あの“マガス帝国の制式魔導兵が来る依頼じゃみんな張り切ってたっけな。俺もだが」

「そういえば毎回のように手合わせをしていた覚えがあるな。そういうことだったか。」

「だな。それとは別に傭兵って自由身分の中で最も軍と気軽に協力できるって結構な噂だったぜ?」

そう言ってコップのビールを一杯呷る。と、話の流れでふと思い出したのだろうか。

「そういえば、だ。お前の調整担当が居ただろ?」

「…帝国軍話術研究チーム前線担当のカーティか。‥思い出してみればアイツ、任務を覚えてるのか疑うほどお前らと仲良くしてたな…」

少し重めなコートラウスの言葉の調子に思わず真顔になる。

「…元気にしてるか、と聞きたかったところだがその様子じゃ」

「そうだ、帝都奇襲事件でな。…あの頃は時代が時代だったからな。酷い戦いは何度も経験しただろう。」

「確かに今の者があの頃に従軍したら上司不信に陥る者はでるな。しかしそうか。さすがのカーティも魔王相手には成す術もなかったのだな…」

驚きを隠さず話す彼を見て、コートラウスにふと思い出すものがある。

(思えばこういった複雑な思考も撤退時にカーティから託されたんだったな。「落ち着いたらこれを使え」、か。確かに見る世界は変わった、だが…)

「まぁ、何かあればまたいつでも頼みに来い。」

「フン、魔導兵から解任された後ずっとオロオロしてたお前にか?」

「…剣についてなら大丈夫だ。」

「そうか、そうだな。じゃあ、これからも頼むぜ。な?」

肩部に手を置いてそう言う友に頷きつつ、こうも考える。

(…まぁ、楽しめる間は楽しむのもアリか。)

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