ゴォォォォン…
大きな音を立てて暗闇に光が差し込む。
重い戸を開けて影として映し出されたのは空色長丈のパーカーを羽織った少女の姿である。
少女―ナナは暗闇の奥にある、扉へと歩いていく。
ガチャ、ガチャ…
ドアノブを捻るが、扉は開かない。施錠を示す赤いランプが点灯していた。と
「…!」 シュタッ
体を右にずらし、首元に飛んできたものを掴む。
握ったのは一本のナイフ。振り返ると同時に照明が点き…
刺客であろう男たちが待ち構える。ナイフには「examination(試験)」の文字が。
ナイフに落としていた視線を上げると、男達の方を睨む。
ヒュ…ストッ 「うぐっ」
投げたナイフは一人に命中した。
「…ふっ!」
素早く刺さったナイフを抜いて別の男の懐へと斬り込んでいく。
隙を見て攻撃にかかる男たちを躱しながら首へ、腹へと確実に仕留めていく。
「‥ォオアッ!」「…!」
ナナの背後を取って殴りかかる者が。しかし
「…ふっ」 …スタッ
彼女には見切られていた。
振り下ろした腕の上を転がるように飛んで避けると
「グハァ…」 ドサッ
背中を踏み台に男たちの頭上へと飛び出す。踏みつけられた者は地面に叩きつけられた。
「はっ…」 ストッ 「うっ」ドサッ
飛び越しざまにもう一人仕留めて着地する。
…しかし、男たちはひるむ様子が無い。それどころか、彼らはいつの間にか持っていなかった剣や銃を持っていた。
「ふぅ…ん」
ナナは溜息を一つ吐くとナイフを捨ててパーカーに手を掛け
―バサァ…
脱ぎ捨てた下には、橙を基調とした彼女の正装が姿を現す。
パーカーを放り投げた手にいつの間にか持っていたトレードマークの帽子を被ると両刃の刀剣を片手に取り
「ハァッ!」 スパァン…
横一閃。近くに居た男たちの上半身が足を置いて落下した。
もう片方の手にもいつの間にか同じものが握られていた。見事に後方から襲撃してきた男の胸を貫いている。
振りぬいて両手とも逆手持ちに切り替えると柄先の部分を合わせて合体させ、振り返りざまに
カッ、スパァン ダッ キッ
流れるような動きで振りぬかれる剣や銃弾を受け流し、ナナが一人ひとり確実に斬っていく。更に
「ふぅんっ」 ビュオォッ
手持ちの刃を投げ、曲線状の軌道上に居る数人を一掃。さらに
カァン‥パシッ、キィン
足元に捨てていたナイフの柄を踏み、蹴り上げて手にすると斬撃を受ける。そのまま手首を返して
「ぐふぅっ」 「くそっ…!?」ドサッ
一人仕留める。飛び掛かってきたもう一人は戻ってきた刃が背中に。
「っふぅ…」 グッ スパァン
押し込み、止めを刺してから抜く。
さて、残るは一人。
…ではあるが、一筋縄ではいかなそうな相手である。
というのも、一際良い勘をもっているらしい彼は今さっき出てきた刺客ではない。
刺客たちが武器を持ち出したとき、既にいた。
そして、二度ほど斬られかけた。
牽制し合うような沈黙が流れる…
キィン 「…!」 ヒュッ カァン、キィィン
やはり今までの刺客とは違い、簡単には仕留められそうにない。
得物の柄を両手で握ると二本一組の刃に分け、斬りかかる。
男も袖に仕込んでいたらしい双剣を握り
カッ キィン ヒュォ、コォン
押すことも押されることもなく、剣戟は均衡を保っている。そこへ
…スチャ、ドォン ‥シュタッ
袖仕込み銃を察知したナナは素早く距離を取る。
…どうやら一発限りだったらしく、袖から鉄の筒を捨てていた。
それでもなお、男は余裕気に肩を回しながら歩み寄る。そして
「ホォッ」 バッ ヒュッ ‥ダッ
お互いの攻撃を止め、膠着する。男はニヤッとした顔をしてナナを見下ろす。が
「…ふぅっ」 「!!」 ダッ、ズザァァ
ナナが睨み返した次の瞬間、顎を目掛けてサマーソルトキックが飛んでくる。
男は紙一重でそれを避け、上げた顔を下げ直す。が
(どこ行った!?) 「…後ろ。」
ナナは男の背後で立ち上がると
「終わり。」 ドサッ 「!…ぐぅ…」
距離を取ろうとするもナナの刃は男の胸を深く捉えていた。
バランスを崩して膝を付き、男がゆっくり地面に沈んでいく。
残った者は居ないか、と辺りを見回す。
そこへ、あるものを見つけたナナは駆け寄ると、自重に身を任せてしゃがみこむ。
心なしかほんの少し震える手を伸ばし、拾ったものはスイーツ店の半券らしきものの破片。
そんな彼女の顔を上げたのは空間に響く扉の開錠音だった。
立ち上がり、脱ぎ捨てたパーカーを拾うと汚れを払いながら扉に向かうのだった。
…ガチャ、キィー‥バタン