実った努力を称え、文化の発展を促したりするために発明などを取り上げて功績として表彰することは大なり小なり我々でも行うだろう。その切っ掛けも様々だ。これから語るはその世界における技術発表の祭典「ラウモアワード」、その開催地たるラウモ連合の変遷についてである。
そして、これはラウモアワードの見物に来た若き学者が地元の研究職の男との話である。今更ながら特に記述が無い限りは相づちを省略して書いてあることを留意して頂きたい。
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兄ちゃんもラウモアワードのために来たクチか。
この時期ここでやると言ったらアワードか。で、お前の目当ての部門はどこよ。
…ほほぉなるほど、歴史学か!確かにマガス帝国の没型制式装備が発見されたのは話題として確かにデカい。
まぁだがそいつのせいでヴァクアン市に越されることが確定しちまったな。俺達としては非常に悔しい限りさ。
…ラウモの発見として喜ばないのかって?
そういえばそうだ。確かにラウモの手柄ではあるがラウモ全体として喜ぶことはないな。
俺たちとしては他の市すべてがライバルって感覚だ。なんか不思議だってカオしてるな。
俺も歴史について地元に関してはそこそこ詳しいつもりだ、お前とは同業みたいなもんだからな。
ことさらラウモの歴史についてなら説明できる自信はある。
っと、聞くか?よし言ったな、俺がラウモの歴史について知ってるだけ語ってやるからよく聞いとけよ。さて・・・
聞けばこの土地は地の力が薄く、その大部分が隣接するヤウリカ狭海へと流れる。
作物はあまりならず、海に行けば凶暴な生物を相手にしなくてはならない。
ただ、そういった土地には何かがあると考えた者達がこぞって人を派遣したのさ。
そこに移り住む人間は知恵を絞り、暮らしのために尽力した。
ある者はやせた土地でもなる作物を、あるものは海の平定をといった具合にだ。
ヤウリカ狭海の海神伝承で殆どラウモ人しか人間が出てこねぇのはそういうわけだ。
…まぁ、こんな状態だから派遣の見返りは無いに等しかったと聞くがな。
ただ、狭い土地でやりくりしてもまだ全てを賄えない頃は自勢力を拡大し、衝突した他勢力とにらみ合っていたらしい。
今でもそうであるように自分たちの技術に絶対の自信を持っていた彼らは苦労を無駄にしないように、尚且つ自分たちに得になるように交渉した。
…うまく妥協点が見つかれば問題はなかったが大抵は決裂し、争うことが多かった。
妥協点が見つかっても競う相手としてお互いみなしていたらしい。
ただ、自分たちの技術だけに頼らず、他の都市や旅人から得た情報も検分したうえで有効に使っていたらしいな。
特にドゥーマとの交流をしていた都市は多かった。
まぁ、ドゥーマに関しては力の流れの都合上何時かは頼るだろうとは考察されていたがな。
ともかく、こういった経緯があるから都市同士がライバルという考えが根付いているのさ。
そんなラウモ地方も手を取り合う機会が訪れたわけだ。
もう説明は不要だとは思うが、混乱期の到来だ。
まぁ、来たからと言っていがみ合いがすぐなくなることは無かったがな。
きっかけは北部諸都市が苦戦を強いられ団結したことが原因だ。
が、そう簡単に団結しないのは予想できるだろう?
実はそこで生まれたのがラウモコンペ、今のラウモアワードに繋がるイベントだ。
部門に分けて優れた部分を競い、融合させ、他国の侵攻に備えた。
対抗意識を忘れないためなのか、それともまだ敵対意識が抜けていないのかは不明だが優秀な結果を残した都市が次のコンペの開催地に選ばれるというシステムがあったらしい。
北部連合の妥協案から始まったコンペは他の都市に評判が伝わっていき、「我こそは」と参加する都市が増えていったそうだ。
そこまでして懸命に考えられた対抗策は当時最強と呼ばれたマガス軍の侵攻を押し返すまではいかなくとも一度は飲み込んだと云われている。
主な作戦としては五人一組となって一つ、または二つの大型魔術の長期連続使用を可能とした通称「五人砦」と呼ばれる部隊や魔導兵を参考に機動力の強化と不意打ちを可能とした仕込み鎧兵による「フェイクアーマー作戦」が有名か。
五人砦は専門の訓練を要したために導入まで相当の時間がかかったと聞くがな。
それでも、混乱期後期の対魔王戦線においても発展した技術によって強力なサポートを行っていたとも聞く。
その後の戦力排斥運動の影響を受けなかった数少ない例でもあるな。
もともと都市間でバチバチに睨みあっていた気質が今更治るわけが無いからな。
が、流石にラウモコンペは混乱期を連想させるとして体制変化を余儀なくされ、ドゥーマとの相談のもと今のラウモアワードへと変化したわけだ。
各都市も「ラウモ連合」という一つのグループとして区分されることで決着がついた。まぁ何度も言うようだがそれしきのことで・・・後はわかるよな?
まぁ、そういうわけでヴァクアン市がもてはやされるのを黙ってみている俺達ではないのよ。
長いこと話題に上がっていたということはその分俺たちが追いつく時間もあったということだ。
それがうまくいったか、それが楽しみだな。
さてと、ここまで聞いてくれてありがとうな。そろそろ上がらねぇと間に合いそうにないので私はここで失礼する…