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[無法都市シナプス] 地底桜に攫われる!

 企画内イベント「地底桜に攫われる!」がギルドからギルド外にクエスト解禁されるまでのあらすじと地底桜ってこんな感じというチュートリアルをSSでお届け。今回はグロ方面にちょっと寄せましたがもっとハッピーな生物かもしれないしイチャイチャできるやつなのかもしれません。その辺りはご自由に。


==お借りしました==
春だ!桜だ!モンスター討伐だ!!!な企画内イベント
https://x.com/uronubox/status/1906677927569448986
ハンターズギルドの設定
https://x.com/9376Hatks/status/1853305007556215214

└目緋絲さん:https://nztk.jp/works/sFFAjhUuxtynziUmbRPN
└ピリカちゃん:https://x.com/torizo_ruru/status/1860267699877871952
└カファルドジマさん: https://x.com/9376Hatks/status/1855255214514946061
└ミラさん: https://x.com/9376Hatks/status/1857069636082139540
チュートリアルしますって呟いたら末尾4出して酷い目に遭った人: https://nztk.jp/works/iobbtJcb143WqtMs7K29

シリーズ

三叉槍狩人

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 燕が日の出の淡い光を裂くように低く飛んでいる。


 もっとも、この光は認識阻害の結界による恩恵であり、"淡い光のなかで鳥が飛んでいる"と普段視覚にほとんど頼ることの出来ない男が視覚的な情報を認識できているのはこの里山がその結界の内側にある事を如実に示している。

 朝日のなかに咲き誇る薄紅色の木々は見かけた事がなかったものの、明日を求める生命の息吹を毒々しいまでに振り撒いて存在を主張している。


「……なるほど、…桜……ね」


 市女笠のようにヴェールの向こう側から眼下の里山──逢真贋刻郷の淡く色付いた山並みを見下ろすのはギルド「Cetus」が誇る三叉槍の号をもったハンター・トリアイナだ。

 この男と逢真贋刻郷の関係は深いが、吸血鬼という太陽に見捨てられた種にとって喉から手が出るほどの逢真贋刻郷の日差しがそうさせたのではない。とはいえ、この男が過去や現在において己の拠り所になる場所や人について他者に話す事はほとんどないから、ハンターズギルドのなかでも関係性を知る物は少なく"ヴェールの向こう側にある"と言っていい。何にしてもトリアイナにとって逢真贋刻郷は優先的にクエストボードから依頼を掻っ攫い他のハンターから独占するに値する土地である事だけは暗黙の了解としてギルド内でも知られていた。

 今回もそうだ。逢真贋刻郷の里山の主人である目緋絲から「妙な植物が生えてきたから貴方達の方でも調べてみてほしい」とギルドに要請があった時に真っ先にクエストボードからその依頼用紙を引っぺがして受付に持ってきたのはこの男だった。

 山の概念の化身でもある目緋絲すらも初めてみたというその「妙な植物」。これについて依頼とともに持ち寄られた枝を元にギルドの生物調査チームと団長であり、死霊魔術師でもあるミラが下した考察は「菌類が擬態したもの」であった。

 それもミラの「他国の呪具のなかで見たことがあります。地底桜のものでしょう」という鶴の一声もあり、一気に調査クエストは駒を進めることになったのだ。


──地底桜オウカダケ。

 主に地下棲の神獣である春蠕竜と共生関係にあるこの菌類は桜によく似た樹木状の茎部をある日突然地表につくりだす。それも竜が数百年かけて地底深くから地表に向けたゆっくりとした移動を行う際に一斉に"咲き出して桜の群生地"を形成するのだ。

 ただ咲くだけならまだしも、その菌類は鞭毛を伴って吸血を行い、また生物の脳に酩酊と興奮、幻覚を齎す胞子を分泌する。報告されている症状として「故人に誘われる」「絶世の美女を見た」などがあるという。故にこそ、術者や時の権力者に愛好され、ヒト殺しの厄災であると同時に金の成る木であるとも言える存在でもある。


──クエスト受注の際に聞いた話が本当だというのであれば、つまり眼下の目に毒なほどの鮮やかな薄紅色の波が全て厄災の前触れだと言うのであれば、自分の手元に手札が回ってきている間に偵察と種の同定を済ませて然るべき戦力をぶつけて追い返すべきだ。ここを荒らさせるべきではない。


 そう、トリアイナは内心の奇妙な焦燥感を宥めつつも観察を続けていた。その様を近くの木に留まっていた幻獣がじっと眺め、羽繕いのために首をそらす。ハンターズギルドの受付嬢ピリカ・カンナカムイの使役している幻獣だ。


「……かなり広い範囲に群生しているようだね。となると地上に竜が出てくるの、近いのかな?わたくしとしては戦闘になるにしても殺害になる事態は避けておきたいけども」

『可能性は否定できませんね。その辺りも調査して下さると助かります』

「今から徐々に距離を詰める。"その子"に菌糸のサンプルを預け次第、わたくしも離脱して団長の指示を待とう」

『かしこまりました。──調査クエスト、開始してください。お気をつけて』


 その凜とした声に応えるように、まるで飛び込み台から水中へと身を踊らせるようにトリアイナは崖をトンと飛び降りてみせた。それも梟もかくやというほどに静かな飛び込みでこれに気付けるものはこの逢真贋刻郷数いるものではない。

 唯一いるとすればこの男が心臓を捧げ、拍動を常に感じ取ることが出来る目緋絲だけである。里山の住民たちの不安を宥めるようにして異様な紅を遠目に見守っていた目緋絲は、クエスト開始とともに徐々に加速する拍動を間近に感じ祈るように目を細めていた。


 着地とともに静かに迅速に菌類によって侵食された山を駆けては、菌類によって汚染され桜の木のようなものが生え始めた木々や岩へとポインティングをするように魔術の込められた杭を地面に打っていく。

 軽装にして、気配絶ちの魔術が施されたハンターとポインティング地点を次々に記録していく幻獣を咎めるものはいない。

 トリアイナが懸念していた菌類に侵食された野生生物やまだ見ぬモンスターとの"交戦"は取り越し苦労にも思えた。


 だが、それは広大な侵食地のうちの表層部に過ぎない。


 注意深く迅速にポインティングと採取を行うトリアイナの手腕を幻獣の目越しに観察しながらピリカは感心するようにひとつ頷いた。バテンカイトス──ギルド最高位のクラスに名を連ね、海底から数多の功績とともに戻ってきたこの吸血鬼の経歴をピリカはほとんど知らないが高い技術力と正確な駒運び、魔術具への理解(本人は魔術は使えないと言ってはいた)は彼女の目を惹くものがあった。

 副長のカファルドジマと共に自分が生まれるずっと前に共にハンターとして働いていたともいうが、だとすればあの2人はどんな冒険を繰り広げたのだろうか──?

 ふとそんな事を思案するなかでピリカは使役していた幻獣の目を通した視界に違和感を感じた。


──トリアイナが、足を止めたのである。


 地表を割って巨大な冬虫夏草のように生えた桜の幹を前に、後ずさるように。あるいは何か蛇睨みにでもあったかのように身動きをやめている。

 体勢を低くし隠れるでもなく。

 危険を察知して退くでもなく、だ。

もちろん、隠密と偵察に特化した装いのトリアイナにはこの数が多過ぎる地底桜を焼き払いながら歩く戦力差はない。だからこそ、今回のクエストでは危険を察知したらすぐに退く手筈になっていたのだ。

 ピリカが短く『トリアイナさん?』と幻獣越しに声をかける。幻獣から発せられた音が空気を震わせて、立ち竦むハンターの鼓膜を揺らした。




『──ダナオス』

「…ぁ、」


 鼓膜を舐め取られるような低く甘える声色にハンター・トリアイナは……いや。300年前にヒトとしての死を迎えさせられた潜水夫ダナオスは、その音に目を見開いた。

 目の前はいつの間に夕暮れになっていて、嗅ぎ慣れた磯の香りと白波が波止場に当たって砕ける音や、海鳥の鳴き声が五感にここが「誰にも踏み込ませるべきではない帰るべき場所」である事を告げている。

 そこに"あの日のように"男がいて名前を呼んでいた。艶のある髪、港町にしては整い過ぎていけ好かないと思っていた口髭。整髪剤と香水の成り上がりものだとすぐにわかる匂い。真っ赤な瞳孔。


『ダナオス来なさい。今日こそは俺の誘いに答えてくれるんだろう?お前は美しくて逞しい。ずっと欲しいと思っていたんだ』

「いやだ…っ…」

『愛してるんだよ。さあ、《跪いて》』


 桟橋の板が軋む。膝に感じる湿気った感覚。抗おうにも、何か巨大な者に組み敷かれたような重圧が脚を地面に縫い付ける。

魔眼。自分が……いや、目の前の男が、いつ?いつだ、いつか。こんな事をして。そして──。


『いい子だダナオス。やっとわかってくれたんだね。かわいい子』

「…や、…やめろ。…ちが、わたくし……っ…オレは」

『やっと…愛を受け止めてもらえる』


 ひたりと何かが触れる。臍の溝を何かのような冷たい肉の塊が撫でた後にツツと腹筋の溝を沿って撫で上がる感触がして背筋から怖気が走った。その怖気に震える我が身を甘ったるい低い声が嘲笑っている。試すようにぐっと筋肉の畝がつくる凹みを押し込まれると力が抜けて抵抗を難しくした。

 この感覚を知っているからだ。逆らえば身を裂かれる。そして、その内側を食い破られる。逆らわねば殺される。人間性も誇りも信仰も。全てを奪われる。受け入れてはならない。何があっても。もう、2度と。震える身を叱咤しながら手指に力を込める。立ち上がって、振り払わねば。


ずぷり


「──ぁ、」

「……がっ??」


ぐぷ ぷ 



ぶちっ






「……ぁ…っ、あ゛あ゛あ゛〜〜〜ッッッッ??!!!」


 仲間の絶叫が幻獣越しに聞こえてピリカは思わず耳を塞ぎ一瞬目を閉じてしまった。ピリカが目を閉じる直前に見たのは停止し跪いたトリアイナの軽装の胴を地面から伸びた菌類の鞭毛部が貫いたことだ。貫通して血が付着した菌類は痛々しいものの、太さはそうなかったように見えた。動きも緩慢で。とても"吸血鬼の喉からこんな悲鳴があがるほどの威力"には。


「ぅう゛っ!?…ぁ……ッ、ぁ゛っ!!!はな、れ……ろぉぉっ」

『トリアイナさん!!退いてください。そこから退避を!』


 まるで火のついた馬のように無秩序にトリアイナが暴れて何もない空間に掴み掛かろうとしてはまた新しく生えてきた細い鞭毛に身を貫かれ、あるいは引き抜かれて血が地面に生えた苔を赤く染める。ヴェールが枝に引っかかって脱げ、鮮明になったその叫びは何処か涙が絡むように絶望の色が混じっており、時折痙攣しては地面をのたうつ羽目になって起き上がる気配がない。その間にも流れ出した血に群がるように辺りの木々は無風にも関わらず揺れ、追い打つように背に開いた傷口から何本かが新たにトリアイナの肉を食い破って顔を覗かせる。そして舌舐めずりをするようにその背を撫で回しては溢れた新鮮な血をまた舐め取ったようだった。

 それでも神獣すらもその手で退ける膂力は振るわれる事はない。いや、縫い付けられたように抵抗出来なくなっているのだ。叫びはまるで懇願するようなそれに変わり小さくなっていき、貫かれて徐々に変色しだす衣服の赤と身体を絡めとる鞭毛の本数が反比例して増えてゆく。吸血鬼の回復力で即座に閉じようとする傷口に殺到し食い破るさまは蝿や腐肉喰らいの分解者であるようにも見えた。

 まるで無力なニンゲンが何か捕食者に襲われるようなそのさまにピリカは目を見開き、幻獣を失う覚悟で短く命じ助けに入ろうとした。


ぶちり


 嫌な音と共にピリカの視界と聴覚が奪われる。その間際の狂気的な感覚に自分の肩を抱き荒く息をつく。円口類のような丸鋸のように並んだ歯のある触手のようなものが──あの悪夢のような生物が仲間であるハンターから逃げる力を奪い、幻獣を捕食したのだと頭が理解するより早く肩が揺さぶられて視界が明るくなった。


「ダナオスに…あいつに何かあったのか?トリアイナは!…あいつは???」


 ギルドの副長であるカファルドジマが青ざめた表情で覗き込んでいる。その表情を見ればそれが彼自身の最も恐れていた事を雄弁に語っていた。先代の団長の頃からの生き残り。あるいはそれ以上の恋慕のような感情を向け合い、おそらくはその視線の先に逢真贋刻郷の主たる目緋絲がいた事は団内でも囁かれていたのだから。

 だからといって、伝えない訳にはいかない。

 

「ハンター・トリアイナ……ロストしました。ま、まだ生きているとは思いますが……敵性生物を…地底桜サクラダケの脅威度をあげて多人数による討伐を推奨します。あの生き物は逢真贋刻郷を変えてしまう」

「クソッタレ……!!」


 普段ならそれでも冷静に対局を見極めるカファルドジマが珍しく青筋を額に浮かべて机に拳を打ちつける音にピリカは目を見開く。


「そんなに叫ばなくても母は聞こえていましてよ?…ピリカ、よく伝えてくれましたね。感謝します。私からクエストを発布しましょう。トリアイナでも崩されるとなると…今回はギルド外からも念のため戦力調達を。クエストの発注手続き頼めますかしら?」

「は、はい!」

「……ッ」

「カファ、そんなに怖い顔をしてはダメですよ。今回は貴方も行って構いませんし、貴方の"玩具"を奪う気はありませんから」

「黙っていてくれクソオンナ。言われなくても俺も出る」


 騒ぎに騒然とする場に現れた褐色の美女──Cetusの現団長であるミラが手をパンパンと叩きながら素早く場を掌握するのをカファルドジマは苦虫を噛み潰したように唸りながらも手綱を団長に引き渡したようだった。


 そうして発布されたクエストは幻獣を通じて各地に届けられた。まだ見ぬ悪夢を打ち払い、あるいは悪夢に呑まれる犠牲者を秘境へと──明日の朝日を望む者たちにとっての母なる霊嶺へと誘い込むように。



「……ファリ、ダナが。ダナの心臓の動きが弱まってる。血を与えてはいるが苦しそうだ」

「わかってる。すぐ、行こう。俺たちであんな巫山戯たクソやろうから取り返すんだ」


 あれからそう時をおかずして、朝日が、痛みを分かち合うように抱擁し合う2つの人影を映し出す。その眼下にはあの調査クエストからより血を吸って赤みを増した地底から湧き出たサクラダケの森が繁茂していた。

[無法都市シナプス] 地底桜に攫われる!

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