ハズレを引くと引くだけ、その次に、当たりを引く可能性が高くなる
ロミオ
場所 不明
人物 巨人 少女 子供 村の人
第一幕
第一場 村から死角になっている山の裏側、山に大きな穴が空いていて洞窟になっている、洞窟の奥
巨人と少女登場。
少女 こんなところにいたのね! さがしたわよ!(びっくりしている巨人を無視して、話し続ける)でも村からは見えないけれど、こんなに大きな穴が空いてるんじゃ、この場所が大人たちに見つかるのも時間の問題ね!(さらに、無視して話し続ける)ちゃんと考えているの? 別に行くところでも見つけていて、ここは、仮のお家ということなの?(もっと、無視して話し続ける)そもそも、こんなところで、どうやって暮らしているの? ごはんは食べているの? あっ! そうだ、そういえば(ポケットからお菓子を取り出し、半分にしてその半分を)ほら、食べなさい!(まだ、無視して話し続ける)ごはんを食べないと、大きくなれないわよ! ああでも、あなたは、大きいわね。でも、ほら食べなさい!(お菓子の半分を巨人に渡す)
巨人 (わんわん、泣きながら)ありがとうございます。ありがとうございます。(お菓子の半分をもらって食べる)
少女 泣いているの? なんで? どうして? そのお菓子が好きすぎるっていうの? 一番好きなお菓子だったの? それを私みたいにママに、高い戸棚の奥に、隠されてひさびさに食べられたの?
巨人 いいえ。人に優しくしてもらえたのが、初めてでして、嬉しくて、嬉しくて、泣いているのです。
少女 ふーん。世間は世知辛いわね。でもそりゃあ、いい人がそんなにうじゃうじゃ、いるってわけじゃない世間だけれど、優しい人は、それなりに、いるわよ。優しくしてもらったのが初めてなんて、あなた、すごく運が悪いのね! ハズレばかり、引いちゃったのね! でも、あなた知ってる? くじには、法則があってね、ハズレを引くと引くだけ、その次に、当たりを引く可能性が高くなるのよ! 私が、発見したのよ! すごいでしょ! 私って天才でしょ! だからね、あなた、これからはね、優しい人に、いっぱい出会えるわよ! よかったわね!
巨人 (わんわん、泣きながら)ありがとうございます。ありがとうございます。そんな優しい嬉しい話を聞かせていただいて、本当にありがとうございます。ああ、夢なら覚めないでほしい。
少女 夢? なにバカ言っているのよ。こんなに、頑張って、さがし回って、やっとあなたを見つけたのが、夢だったなんて、骨折り損のくたびれ儲けじゃない? 違うっけ? こんな時に使うんじゃなかったっけ? このあいだ、この言葉を知ったとき、次、何かあったら、使ってやろう、使ってやろうって、思ってたのよね!
巨人 (笑う)
少女 あら! 笑うとかわいいじゃないあなた!
巨人 かわいい? (自分を指差し)私が?
少女 そうよ!
巨人 今日は、なんという日だ、天使に巡り合えた。
少女 大げさね。まあ、でも、私は、可愛いから、そう言ってもらっても構わないけどね。(ウインクする)
巨人 あの、天使のあなたに、聞きたいことがあるのです。よろしいでしょうか?
少女 なに?
巨人 どうして、巨人の自分を見ても、おそれないのですか?
少女 なんで? 巨人を見たら、こわがらなくちゃいけないって、法律でもあるの? もしそんなひどいことが法律だったら、そんな法律は、破っちゃえばいいのよ!
巨人 本当にこわくないのですか?
少女 ぜんぜん。だって、私あなたが、優しい心の持ち主だっていうこと、知ってるもの。だって、すぐ泣くし、丁寧な喋り方だし、それに笑顔がかわいいし、こわがれって言うほうが、無茶よ! でも、大人は、みんな嘘つきね!
巨人 なぜですか?
少女 あなたのことを、まるで悪魔のように言うのだもの。あなたを見てると、ママのほうがよっぽど、悪魔みたいに怒る時があるのに!
巨人 (笑う)
少女 みんなにも、そのかわいい笑顔を、見せてやればいいのよ、そうしたら、変な噂も、あっという間に、なくなるわよ!
巨人 そうでしょうか?
少女 そうよ! 絶対よ! でも変ね、なんで、嘘が、広まったのかしら? 誰ひとり確かめにこないで、嘘を信じるなんて、大人もダメね! 遠くから見ただけで、よくも見えないのに、勝手に自分たちで、決めつけたのね! よく知りもしないのに、知ろうともしないのに!
巨人 皆さん私の見た目がこわいのでしょう、私も、もし自分より、大きな大きな巨人がいたら、こわくもありますからね。仕方ありません。
少女 みんなは、あなたのことを、理解しようとしないのに、あなたはみんなのことを理解しようとしているのね、理不尽な世の中。ねえ、ひとつお願いしてもいい?
巨人 ひとつでも、ふたつでも、いくつでも、よろこんで!
少女 明日も会いに来ていい? 毎日会いに来ていい?
巨人 お願いなどとはとんでもない! こちらからお願いしたいくらいです。(二人退場)
――数十年経過
第二幕
第一場 村、村の横にある大きな大きな家、家の中
巨人と大人になった少女。二人の子供。大きなテーブルがあり、三人は、座って朝食を食べている。
大人になった少女 ほらまた、野菜を残してる。好き嫌いしていると、大きくなれませんよ!
子供 だって美味しくないんだもん。それよりお菓子が食べたい。
大人になった少女 お菓子はお菓子ごはんはごはん、ごはんを食べ終わったら、お菓子を少しだけ食べてもいいわよ。
子供 本当!?
大人になった少女 本当!
ノックする音がする。家の玄関が開き。村の人登場。
村の人 おはようございます。この間の件大丈夫かね。
大人になった少女 (巨人に)なんのこと?
巨人 この雨が多くなる前の時季に、前もって、氾濫がおこらないように、工事をしておこうという話なんですよ。今回は。(村人に)大丈夫です、今行きます。
村の人 いつもいつもありがとうね。村人全員、あなたに感謝しているよ。
巨人 いえいえ、この大きな体が、お役に立てるのであれば、どんなことでもよろこんで。(大人になった少女に)じゃあ、行ってきます。
大人になった少女 いってらっしゃい。あっ、ちょっと待って(子供にお菓子を上げてる途中で、そのお菓子を三つに割って、ひとつは子供にあげて、ひとつを巨人に渡す)はい、いってらっしゃい。
巨人 (三分の一のお菓子をもらって食べる)ありがとうございます。行ってきます。(一同退場)