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二人の影

「名無しのナナ」シリーズですが、勝手に僕のキャラと共演させました。失礼します。 舞台を寂れた日本っぽい所と仮定し、護衛ミッションに挑みます。 「最凶の殺し屋らしい」という文から滅多に受けないのかなと連...

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元になったシリーズ
名無しのナナ

「依頼。ヒルズバックより、オカモトを護衛しろ、か。微妙にきな臭いよなー。ま、裏に居るんだから当たり前っちゃ当たり前にはなるが…」 ヨレたチェックの上着に青いデニムの中背の短髪男が小声で愚痴る。 多少剃った眉を片方歪めつつ、携帯を確認しながら歩く男の先にその対象は居た。 「パチンコに向かうわけでも無し、パトカーに怯えるわけでも無し、仕事…は初日かつ休日だから要観察にしろおかしい所は無いんだよな…か、むしろ」 男は路地裏に姿を消す。人が居ないのを確認して何故か衣服を脱ぐとT字ポーズを取り… ヴォォン… …アンドロイドに変身する。そして頭の横に手を当て、内蔵システムを使いネットを探していく。 彼の名はプラザム、宇宙を旅するアンドロイドである。余談だが魔法も使える。 手足の付け根を起点に換装時にプラズマが発生して衣服が焦げかねないため、緊急時以外は脱いでから換装するのだ。 「…なるほど?被害者候補ってことか。あれだけ兄に借金があれば、な。いやー、もう少し情報を持ってくるんだったかな、と…」 マークしていた男に動きがあった。 「これはちょっと危なそうかな?行くか。…?」 男が向かう先に待ち伏せが居る。変装しなおしつつ、いつでも戦えるよう腕を換装する。 唯一、彼が図りかねている存在が居た。 「あれは‥少女ぉ?しかもオカモト標的にしてはおかしい所があるんだよな。第二目標彼女と接触、訊き出しで」 とある廃ビルの窓から中年をじっと観察する少女が居る。 いや、中年をというよりは中年に近づく者達を注意深く観察していた。 …正直、現在の彼女はあまり気分が良くない。 というのも今回の依頼は「護衛」であり、普段使う以上の集中力を必要としていた。 もう見た目相応にアイスでも買いに行こうかと考えること数回。 「…?」 ふと壁から気配を感じた、気がした。 いや、気のせいか? 実のところ彼女の勘は当たっている。というのも部屋の入り口の壁の裏、 (バカかよ!変身のために脱いだ服くらい着てから動けよ俺!) 慌てて服を着るプラザムが居た。情けない。 (もうちょっと換装機構の改良にでも努めますかね…!?) 不意の攻撃を感知し、咄嗟に反対方向へと飛び退いて構える。 確実に首を狙っていた。相当な実力者なのだろう。相手は… 「‥お嬢ちゃん、悪かった。俺はオカモトという人物の護衛依頼を受けていてな、敵か味方かを見極めたかっただけだ。」 吹き抜けとなった窓際に居たはずの少女であった。プラザムはほんの少しの動揺を悟られまいと努める。 …喋ってはいけなかったかもしれないことを喋ったのでは、と一瞬思ったが 「そう、同業‥」 それだけ言って少女は刃を収める。 よかった、喋ってよかった内容で。 …ただ、彼女は鵜呑みにした様子もなくいつでも攻撃できる態勢は崩していない。この道に足を踏み入れて大分経っているというところか。‥そういえば。 「少女…か。予想が合っていれば『ナナ』って呼べば良いかな?ヒルズバックで話題になってたぜ…と、そろそろ動きがあるんじゃないか?」 仲間なら、と協力を持ちかけようとした最中、プラザムのレーダーに怪しい人影が引っかかる。 …流石名の通った殺し屋なだけある。もう既にこの場には居ない。 さて、今のうちに換装するか。元々ここは人気も無く、いつ事が起こっても不思議じゃない。 「が、現行犯を待ったって大丈夫だろ。」 万が一に備えて改造エアガンを構える。撮影をして証拠を抑える以上、自前の内蔵武器を使っていては言い訳できまい。殺傷能力は無いにしろ、言い訳できるに越したことは無い。 (まぁナナがどう出るか、だな。慣れてなかっただろう護衛依頼、彼女はこれからどうするか…) カメラ片手にエアガンを構える。が 「…ん?まさか?」 裏で引き続き調べていて、ふとあることに気付く。 「あっそう。じゃ、どうしてやろうか…」 プラザムはカメラとエアガンをそっと置いた。 「ったく、貧乏籤にも程があるぜ…」 「だな。どうせ殺されて終いだろ、こんな役回りよ…」 「オカモトを殺せれば万々歳って了見にしかすぎんだろうよ、ボスも。」 「お前ら黙れ、頼まれたからには殺るんだよ。」 冷や汗も出兼ねないほど愚痴をこぼす同僚を窘め、標的のオカモトを待つ。 「まぁ、所詮は二人だ。連携して数で押し切っちまえばどうってことねぇよ。と、来たな…!?」 飛び出そうとして、踏みとどまる。というのも 「グハッ」 「ひぃっ!?‥うっ」 という声が後ろからした。恐る恐る振り返ってみればさっきまで生きていたはずの部下が横たわり、そのそばで携帯を操作する 「女の‥子だと‥」 「ふぅん…」 こちらには目も暮れず、携帯を確認するオレンジがかった衣服の少女が居た。手には大きな刃…を上下につけた武器。 携帯を仕舞うと、こちらに目線を移す。 「…!」 来る! カキィン!‥ヒュォ、コォン… (どうやら彼女が護衛の一人らしい。ガキと侮らずに警戒して正解というべきか…) 二太刀受けると少女が間合いを取った。…にしてもこの少女、 「まさか、噂の…」 一瞬で帽子から下が消えた。 反射で横に避ける。が 「グフゥッ」 サッ ドン 「…殺さないのか?」 足を掛け転ばされ、追い込まれる。 この一瞬で抵抗できない怪我を負い、死を覚悟した。 が、目を開けると彼女はこちらを観察している。 「ハズレ、ね。」 溜息を一つ吐くと、刃を取り出し 「…どうも、お疲れ」 ヒュン… 「次。」 翌日、ヒルズバック支局の地下駐車場。 車の陰で男が少女に封筒を手渡す。 「これが報酬だ。あと…お前には黙っていたのだがもう一人、護衛を付けていてな」 そう打ち明けると 「彼から聞いた。」 とだけナナは返事をする。すると、手元へと落としていたナナの視界に封筒がもう一つ。 「…そうか。で、そいつから連絡があってな。奴の取り分もお前にやる、だとよ。足がつかないってことで頼んだが、気を付けろ。奴はお前以上に謎が多いぜ…」 まぁ、聞いてはいなかったようだ。 ナナは臨時収入にスイーツの割引券を見つけ、男が話し終わるのを待たずに飛び出していった後である。 「ふぅ…」 溜息を一つ吐くと愛車のボンネットに寄りかかり 「これから忙しくなるかな…」 そうこぼした。 とあるスイーツ店。割引券を握りしめ、メニューに目を通すナナの姿があった。 余程フラストレーションが溜まっていたのだろうか、最早ただの無邪気な少女と化した彼女には無表情の無の字も見当たらない。 …そんな彼女を尻目に、ラジオでとあるニュースが報じられる。 『…いてのニュースです。ヒルズバック総局長のトウザワ容疑者が、オカモト氏を巡る一連の事件に関与したことが発覚しました。容疑者は明け方に「奴は鉄の悪魔だ」などと呟き、怯えながら出頭してきたとのことです。警察は、更なる余罪を追及するとともに容疑者を脅迫や収賄…』

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